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龍帝記  作者: 久万聖
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帰国と新たな胎動

リュウヤらは帰国の途についている。


グラーツ滞在は3日。


講和交渉成立の後の調印式を終えると、今度は虜囚とした主戦派貴族たちの身柄引き渡し交渉。


身代金総額金貨1千枚で妥結すると、虜囚となっていた者たちを解放する。


無事に解放されたとはいえ、彼らの権勢は大きく削がれることになる。


なにせ、決定的な敗北を招いたのだ。これまでのように振る舞うことはできないし、またラスカリス候ら講和派貴族がそれをさせないだろう。


それに、主戦派の領袖であるエナーレス候の引退は既に決定している。

龍王国(シヴァ)との和平を選択した以上、主戦派を主導したエナーレス候は敗戦とともに引退せざるを得ないのだ。

そうでなければ、龍王国との継戦の意志ありと取られかねない。

それを防ぐためには、エナーレス候は引退しなければならない。しかも、講和派貴族の監視を受けて。


多数の貴族の代替わりもあり、オスト王国の混乱はしばらくは続くことになる。


滞在最終日には、リュウヤはジギスムント王太子との会談も行なっている。


そこでリュウヤは、ジギスムント王太子の即位式典への参加を確約している。


「あの、リュウヤ陛下。本当にあの条件でよろしかったのですか?」


ジギスムント王太子としては、もっと過酷な要求をされると思っていたのだ。

奴隷の要求(特に女性)であったり、領土の大幅な割譲であったり。


だがリュウヤはそれらを求めなかった。


「そんなことをしても禍根を残すだけ。特に平民相手に禍根を残すのは、下の下というべきものだ。」


だから、リュウヤが求めたのは金銭的なものがほとんどである。

仮にそれが原因で増税されたとしても、それは負ける戦いをした国の首脳陣へと憎悪は向けられる。

それでも、戦死した家族からの憎悪を受けるのは、免れえないが。


さらにリュウヤが求めたのは、オスト王国がその長い年月の間に蓄えた書籍の譲渡である。これは、原本(オリジナル)であることまでは求めず、写本を認めている。

これに関しては、オスト王国に活版印刷機を持ち込み、複製させるつもりでいる。


活版印刷の技術は流出するが、それもこの世界の文明の向上になると思えば安いものだ。


また、グラーツにて大量の酒類を購入している。

なんでも、オスト王国は葡萄酒(ワイン)の名産地として知られているらしく、ドワーフ王国と、自国のドヴェルグやドワーフたちへの手土産でもある。



グラーツを出発して程なく、シニシャらセルヴィ王国軍と別れる。


「次は、両国の同盟調印式でお会いしましょう。」


シニシャは別れ際にそう言って辞している。


その場にて、コスヴォル地方の譲渡に関連する署名式も執り行われることになるだろう。これは、龍王国で行われることになっている。


また、激戦の地となったギュッシングへの見舞金と復興資金の一部にと、金貨500枚を渡している。


イストール王国軍及びパドヴァ軍、ドワーフ王国軍は一旦、龍王国へ入り、その後にそれぞれの国へ戻ることになっている。


龍王国への帰国の途上、頭を抱えている龍人族10名。

未だに侍女服のままであり、帰国まで着替えることを許されていない。


トモエなどは何度もリュウヤに懇願したものの、許されていなかった。


「この格好を他の者に見られるなんて・・・」


そう嘆いている。


嘆いてはいても、リュウヤから龍化を認めて来なかった理由の説明も受け、その重大さを知った以上は、軽率な行動を反省するより他はない。


トモエの嘆きは、もうしばらく続くことになる。
















暗い、光の届かぬとても暗い地。


冥府と呼ばれる場所にて、動きがある。


この地の(あるじ)たる存在の元に、冥府の番人とも呼ばれるバルログが報告に来る。


「龍人族が完全に復活したようでごさいます、冥神様。」


冥神、それは忘れられた古き神。


艶やかな容姿と、その肢体に纏う黒い服。

その髪は漆黒の闇のようであり、白い顔が浮かびあがっているように見える。


始源の龍、始まりの巨人、四色の竜、調和者と並ぶべき存在。


名は無く、ただ冥神とのみ呼ばれ、その存在は極一部の書に散見されるのみ。


「ほう、龍人族が完全に復活したか・・・。

ならば、姉上が復活したということじゃな。」


(なま)めかしい唇を開き発せられる言葉は、聞く者に心地よさを与える。


「はい。姉上様、始源の龍様の復活とともに、三代目(・・・)の存在も確認されております。」


「なに!!

三代目じゃと?!」


バルログは肯定するように、恭しく一礼する。


「ならば、近いうちに挨拶に行かねばなるまい。」


そう口にすると、形の良い唇に手を当てて考えこむ。


その姿を見て、バルログは再び一礼すると冥神の前を辞したのだった。


始源の龍、女性でした。

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