王宮への道
嚮導役として派遣されたパウル・ゲーデルの案内で、オスト王国王都グラーツの王宮に向かう。
リュウヤが供として同行させたのは、タカオとマテオ、スティール、アンセルミ、ナスチャ、ラニャ、コジモ、アルテアを中心として60名。
セルヴィ王国軍からシニシャとゴラン、後は近侍の者20名。
イストール王国軍からはジゼルら10名。
ドワーフ王国カルバハルの王バトウら10名。
そして、リュウヤ襲撃の主犯たるアンジェロ・ローレンツをはじめとする10名。
敵国の王が来るとあって、街中は静まり返っている。
ただ、視線はやたらと感じられることから、どこかから覗き見している者が多数いるのだろう。
「いつもなら、この辺りは騒々しいくらいの人間がいるのですがね。」
リュウヤ相手にも憶することなく、パウル・ゲーデルは説明している。
「では、いつか平時に来てみたいものだな。」
エストレイシアの諜報網によれば、グラーツの人口は約10万だという。
それが、表に出てきて経済活動をしていれば、さぞや賑やかなことだろう。
もし時間が許したなら、この街を散策したいものだが、そんなことはできないだろう。
いずれは、お忍びででも散策したいと思わせる、そんな雰囲気を持っている。
「随分と歴史を感じさせる、良い街並みだ。」
素直なリュウヤの称賛にゲーデルは気を良くしたのか、
「オスト王国成立以前からの街ですからな。ざっと、300年の歴史となります。」
「300年か。伝統と歴史を感じさせるには、相応の時間が必要だということだな。」
現代日本でも、歴史を感じられる街というのは、2〜300年を経て残った街であることを考えれば、300年というのもそれなりに説得力のある数字ではある。
王城の門をくぐると、市街区とはまた違った趣を見せる。
防衛のための最終ラインでもある城壁は、10メートルほどと相当な高さと厚みを誇る。
王城の正門から王宮の門までの道は、侵入した敵の進軍時間を稼ぐために曲がりくねっており、また道幅も狭い。
日本の城とはその様式も違い、非常に興味深い。
「何か興味深いものでもありましたか?」
リュウヤの様子を見て、スティールが話しかけてくる。
「俺のいた国の城とは全然違っているからな。全てが興味深い。」
もし自分が城を設計するとなれば、やはり日本のような多数の曲輪を配置した物になるだろうと思う。
そうなると、相当な額の資金が必要になることだけは、間違いない。
それに、岩山の王宮をそのように改築することもできないだろう。
築城する可能性があるとするならば、獣人族の国になるだろうが、そうなる未来は来て欲しくはない。
そう考えていると、一行は王宮の門をくぐっていた。
そのさきは、それまでの武骨な軍事要塞としての姿ではなく、華美な装飾が施された建物があり、それを取り囲む美しい花々が植えられた庭園が広がる。
香しい花の香りが鼻腔をくすぐる。
フランスのヴェルサイユ宮殿の規模とまではいかないが、それでも見事な庭園であることは間違いない。
その庭園を抜けて、王宮の玄関前まで案内される。
リュウヤらを出迎えたのは、ラスカリス候を中心にイザーク伯ら講和派貴族たちである。