表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍帝記  作者: 久万聖
236/463

イザーク伯

オスト王国王都グラーツ郊外に陣を構える。


これは、ひとつには示威行為であり、オスト王国の出方を伺うものである。


ただ、今回はオスト王国の出方を伺うというよりも、グラーツより派遣されるであろう使者を迎えるのが目的となる。


陣を構えて間もなく、グラーツより使者一行が現れる。


「私はエーリッヒ・イザーク。

伯の爵位を持つ者。

オスト王国より使者として遣わされた。

龍王国(シヴァ)の王、リュウヤ陛下に御目通り願いたい。」


イザーク伯を出迎えたのは、リョースアールヴのイルマリだった。


「私はイルマリ。

使者殿たちをお連れするよう、陛下より仰せつかっている。ついてこられよ。」


その言葉に鷹揚に頷き、後に続く。


陣中を通り、リュウヤの待つ天幕まで約10分。


その短い時間の中でも、イザーク伯は観察を怠らない。

その観察のなかで感じられること。


「噂には聞いてはいたが、予想以上に多種族混同なのだな。」


人間族が大半を占めるオスト王国では、これだけの種族は見られない。

見られても、せいぜいがエルフかドワーフ、ドヴェルグくらい。

アールヴや龍人族はまず見ることがない。


「しかも、これだけの種族をまとめ上げるとはな。」


素直に感嘆する。


だが、ただまとめるだけなら武力のみでも出来ないわけではない。

下交渉の使者であるイザーク伯が注目しているのは、敵王たるリュウヤの知性。


その知性が無ければ、交渉はまとまらなくなる恐れもある。

いや、交渉の結果、オスト王国が滅亡する可能性すらある。


その知性も、その種を見極めなければならない。

真に知性と呼べるものであるのか、狡知・奸智の類いであるのか。


リュウヤがいるという、一際大きな天幕の前まで来ると、イザーク伯ら使者の一行は大きく深呼吸をする。


この中に敵王がいる。


そう思うと、全身を緊張に包まれる。


イルマリに促され、中に入る。


そしてその正面の奥に、その敵王がいた。







イザーク伯はこの時のことを、後に自分の子らに次のように語る。


「第一印象は、単なる美形の優男(やさおとこ)だった。

だが、次の瞬間に悟った。

絶対に敵にしてはならない人物、いや存在だと。」








「お初にお目にかかります、エーリッヒ・イザークと申します。」


誰に促されるでもなく、イザーク伯は自然と膝を折り頭を下げていた。

イザーク伯だけではない。同行している6名全員が、そうするのが当たり前であるかのように膝を折り、頭を下げていた。


(おもて)をあげられよ、使者の方々。」


その言葉に一行は顔をあげて、初めてリュウヤの顔を正面からしっかりと見る。


一見すれば美形の優男。

だが、底知れぬ恐怖が全身を覆う。

イザーク伯は一行のひとりに目をやる。

イザーク伯に視線を送られた者、彼は護衛のひとりとして付き従っている魔法使いである。

その魔法使いは、小さく首を振る。それは、魔力の発動は感じられない、そう伝えるものだった。

魔力による圧力ではないならば、絶大な武力を持つ者が放つという殺気の類いだろうか?

そう思い別の随員に視線を送る。だが、その視線を送られた者も小さく首を振っている。


ならば、これは自分の直感が恐怖を心に伝えているということか。


「講和のための下交渉、私はそう判断しているのだが、違ったかな?」


「いえ、相違ありません。」


「では、場を改めよう。イザーク伯と、その補佐をされる方々はついてこられよ。」


リュウヤはそう言うと、イザーク伯らが入ってきたのとは違う出入り口より出て行く。

それを、イザーク伯とふたりの従者が後を追った。






その先にの天幕には、リョースアールヴのフェミリンスとエルフのミーティアが待っていた。

さらに、セルヴィ王国の王弟シニシャと、イストール王国からの援軍の指揮官であるデュラスも、この場にはいる。

シニシャはともかくとして、デュラスはオブザーバーとでもいう立場であり、本人もそれを自覚している。

そのため、交渉には求められない限りは、発言をしないことにしている。


それぞれに用意された席に座ると、


「では、始めるとしようか。」


そのリュウヤの言葉が、下交渉の開始の合図となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ