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龍帝記  作者: 久万聖
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講和条件

リュウヤが親卒する本隊と合流したエストレイシアは、コスヴォル地方での状況報告のため本陣へと向かう。

そこで見たものに彼女は暫しの間、声を失う。


その場にいたスティールに声をかけ、問いかける。


「スティール、あれはなんなのだ?」


その視線の先にあったのは、アルテアに指示されて動いている、侍女服姿の龍人族の女性たち。

特に目を引くのがトモエだった。


「ああ、あれはですね・・・。」


スティールの説明に、


「よほど、腹に据えかねたのだな、リュウヤ陛下は。」


今回の戦いは、これまで戦場に出る機会が少なかった者たちに手柄を立てさせるという目的もあったのだ。

それを龍化してしまうことで台無しにしてしまった。


そして、まだ秘匿しておきたかった龍人族の完全復活を、実にあっさりとバラしてしまったことに。


「目先のことだけで良いのなら、トモエがしたことは間違ってはいないが、陛下はさらに先を見据えておられるからな。」


しっかりとした地力をつけるまで、他の有力種族を刺激しない。

それがリュウヤの方針であったのだが、トモエの暴走で大きく方針を変える必要が出てくるかもしれない。


近場で動いて来そうなのは、天使族とも呼ばれる翼人族だろうか。

アールヴと並ぶ、調和者(フォリア)によって生み出された種族。

この地より東に位置する、「世界の屋根」とも称される山脈を根城にしている。


もしくは、この世界の四方の果てに居城を構えるという四色の竜王とその眷属たる竜人族(ドラゴノイド)


古き神によって生み出された者たちばかりではない。

新しき神々が生み出した者たちも、放っては置かないかもしれない。


リュウヤのことだから、戦うということは最後の最後まで選択しないだろうが、相手はどうか?

今はまだ服属してはいるが、リョースアールヴのフェミリンス氏族との因縁だってあるのだ。

いつ、どう転ぶかは予測がつきにくく、かなり危うい舵取りが迫られているのだ。


トモエの行動は、それほどに軽率なものだった。


そのトモエが、リュウヤにとりなして欲しそうにエストレイシアを見ている。

だが、その視線はすぐに外される。


「トモエ様。そんなところで止まってないで、ちゃんと運んでください。」


アルテアが注意する。


「わ、わかっている。運べばいいのだろう。」


あきらかに嫌々荷物を運んでいる。


「トモエ殿は、あの程度の罰で済んだことを感謝すべきなのだがな。」


リュウヤとしても、トモエに状況説明をしたいのだろうが、ここには他の種族も多数いるため、できずにいるのだろう。

どこで誰が聞き耳を立てているかわからないのだから。


「龍人族は、他の種族と隔絶した力を持つ。だからこそ、その力の行使には注意しなければならない、か。」


「陛下のお言葉ですね。」


「そうだ。決して、力に溺れてはならぬ、そうも仰られている。」


残念ながら、リュウヤの見識に追いついていない龍人族も、まだまだいるということだろう。


「陛下の元へ案内してくれ。」


スティールは、エストレイシアをリュウヤのいる場所まで案内した。







「エストレイシアです。陛下、ただいま御身(おんみ)の元に戻りました。」


"御身"とは仰々しい言葉使いだと思うが、


「よく戻った。早速だが報告を聞かせてくれ。それと、フェミリンスはどうした?」


「フェミリンスは、シニシャ殿と講和に関する意見の擦り合わせを行なっております。」


それに関連して、シニシャがセルヴィ王国の王族に復帰したことが報告される。


シニシャの王籍復帰は、驚くようなことではない。元々、あの男が自分で言っていたことで、実際はどうだったか怪しいものだったのだから。


そして、エストレイシアから合流するまでの報告を受ける。


戦いの様子から、同盟軍を構成したセルヴィ王国軍の様子、またその戦いぶり。


「それから、勝手ながらギュッシング復興のため、エルフたちを残してまいりました。」


「それは仕方あるまい。派手に破壊したようだからな。最低でも、瓦礫の撤去はしてやらねばならんだろう。」


「御意。」


エストレイシアは一層頭を下げ、それから、


「陛下の方も、随分と心労があったと伺っております。」


その言葉を聞き、リュウヤはエストレイシアの背後に控えるスティールを見る。

スティールが小さく頷いたのを確認し、


「自分の考えを周囲に浸透させるには時間がかかる、そういうことだ。」


龍人族の主人(あるじ)となって、まだ一年余。

自分の考えを伝播させるには時間が足りない、そういうことだ。

ただ、サクヤやシズカとともに、龍人族の中では最も自分と接する時間があったはずのトモエが、まだそのことを理解していなかったことはショックでもあるのだが。


「後は、講和条件だな。」


「えっ!?講和条件ですか?

フェミリンス様がシニシャ殿と詰めているのでは?」


驚きの声をあげたのはタカオだ。


「フェミリンスは聞き役だ。セルヴィ王国が、どういう条件を望んでいるかがわからないと、こちらも動きづらいからな。」


実のところ、リュウヤは領土の割譲を求めてはいない。

統治しようにも、人材が不足しているため領土を割譲されても対応できない。

急速な拡大は、人材を薄くばらまくことになってしまい、一度綻びが生じると一気に破綻しかねない。


そうなると、賠償金での対応となる。

戦費が金貨にして約3千から3千5百。これにどれだけ上積みできるか。


セルヴィ王国の要求は、まず間違いなくコスヴォル地方の返還だろう。

これは、アルナック村から王宮に戻る際にも話していた。


「グラーツに着くまでの間に、シニシャとも話をする必要があるだろう。」


正確には話し合いではなく、腹の探り合いか、化かし合いというべきではあるのだが。

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