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龍帝記  作者: 久万聖
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クラーゲンフルト平原の戦い 前編

クラーゲンフルト平原の戦い。


戦いの始まりは、特筆するようなものではなかった。


貴族連合軍の第一陣、騎兵3千が突進を仕掛ける。


これは、龍王国(シヴァ)軍の第一陣がドワーフ隊であることを知り、騎兵の突進により蹂躙することを狙ったものである。


頑強とはいえ、身体が小さく動きが鈍いドワーフ隊相手には最良の策とも言える。

機動力に富んだ騎兵により、ドワーフ隊を翻弄して混乱させるのだ。


ただし、この策が有効なのはドワーフ隊のみか、ドワーフ隊と他の隊の連携が取れていない場合である。




一方、龍王国軍の先鋒を務めるカルドゥハル王バトゥが率いるドワーフ隊は、貴族連合軍が放つ矢から身を守るために、盾を隙間なく正面、上方に向けて並べている。


「"トロイ"で観た光景だな。」


とはリュウヤの言葉。


この"トロイ"はブラッド・ピット主演の映画のことで、ブラッド・ピット演じるアキレスの部隊がトロイ前面の海岸に上陸した際、トロイ軍の矢から身を守るために盾を亀の甲のようにして、前進した場面を思い起こしたのである。


がっちりと隙間なく並べられた盾を、貴族連合軍の矢は貫くことはできない。


貴族連合軍の仕掛ける矢戦(やいくさ)に対応したのは、第二陣のエルフ隊による一斉放射である。


弓の名手として名高いエルフの弓勢(ゆんぜい)は、その華奢な身体から繰り出したとは思えないほどに早く強い。

その理由は、エルフたちはその放つ矢に風の精霊の加護を纏わせているからである。

そのため、通常の弓や射手では届かない距離も、エルフたちには十分に有効射程なのだ。


エルフ隊の援護により、貴族連合軍の騎兵の勢いは減殺(げんさい)されてしまう。


そして、勢いを減殺されつつも接近してくる騎兵隊に向け、ドワーフ隊はバトゥの轟く雷鳴のような声量の命令が下る。


「盾を捨てよ!!突撃じゃあ!!!」


命令一下、盾を捨てて戦鎚(ハルバード)を構えたドワーフ隊は、騎兵隊に向けて突撃する。


ドワーフ隊の突撃に、彼らを混乱させるはずの騎兵隊が混乱に陥る。


ドワーフ隊に対して騎兵を用いる。

そんなことは、百戦錬磨のバトゥは予想していた。

特に今回のような平原なら、ドワーフ隊には最良の対抗手段なのは間違いない。

だが、当然ながらドワーフたちにも対騎兵の戦術があるのだ。

ただでさえ低い重心を活かして、戦鎚で馬を狙うのだ。


しかも、今回はエルフの援護射撃がある。敵騎兵は下方のドワーフ隊ばかりを注意するわけにはいかない。

ドワーフ隊に気を取られれば、エルフの矢によって射倒され、矢に気を取られればドワーフの戦鎚により薙ぎ払われる。


貴族連合軍の先陣をきった騎兵隊は、みるみるうちに壊滅していく。


「それぞれの種族の特性を活かして戦えば、その戦闘力は計り知れないものになるのだな。」


敵騎兵隊が壊滅していく様を見て、右翼に陣を構えるデュラスは感嘆の声をあげる。


「まったくです。この龍王国を敵に回すなど、かんがえたくはありません。」


副官のセリュリエが同調する。


「龍王国軍を褒めてばかりはおれんぞ。我らも力を示さねば、なんのために来たかと(そし)りを受けよう。」


「では、いよいよ?」


「幸いなことに、ドワーフ隊は足が遅い。我らイストール王国の騎兵隊の出番だ。」


「あのボンクラ貴族どもに、騎兵の戦い方というものを教えてやりましょう。」


デュラスはその言葉に頷き、号令をかける。


「行くぞ!!」


デュラスを先頭に、イストール王国軍は攻勢に出る。






「イストール王国軍が動き始めました!」


左翼に陣を構えるパドヴァ軍を指揮するグィードは、その報告を受けると、


「我らも動くとしようか。」


騎兵中心のイストール王国軍に対し、パドヴァ軍は歩兵が中心である。

そのため、行軍速度に差がある。

その結果、特に意図したわけではないのだが、斜線陣を形成することになった。


さらに、第二陣であるはずのエルフ隊がドワーフ隊を追い越し、次々に矢を放ち正面の敵兵を削り取っていく。


エルフ隊の攻撃に対応するため、貴族連合軍は正面の軍を前進させて、接近戦に持ち込もうとする。


だが、それを今度はドワーフ隊がエルフを追い越して対応する。







「なんたるざまか!!」


エナーレス候フェルデナンドは激昂していた。


此方の方が圧倒的に多数の兵がいる。にもかかわらずこの惨状はどういうことか!


敵の先陣にいるドワーフ隊を蹂躙すべく、騎兵3千を送り込んだ。だが結果はどうか?


あっという間に壊滅させられてしまった。


前面に出てきたエルフの弓兵隊に対抗するべく、正面部隊を前進させてはみたが、今度はドワーフ隊がそれを阻止している。


多種族混成軍だから、連携が取れていないだろうと踏んでいたのだが、予想に反して連携が取れている。


ならば、


「全軍を前進させよ!数で圧倒するのだ!!」


エナーレス候の命令は、基本に忠実といえば忠実である。

そして、戦前の宣言通りでもある。


「大軍に駆々たる戦術は必要ない。正面から叩き潰せ!!」


エナーレス候は、味方を鼓舞すべく命令する。








「シビレを切らしたか。」


貴族連合軍の動きを見て、リュウヤは呟く。


「最初からそうしていればよかったのにな。」


続くリュウヤの言葉に、


「それはどういうことでしょうか?」


連絡役として本陣に置かれたジゼルが、疑問を口にする。


「こちらの倍の兵力があるんだ。堂々と、変に策を弄さずに来たら、こちらも打てる手が限られていたんだよ。」


正面からぶつかり乱戦に持ち込まれていたら、エルフ隊の持ち味を殺されることになる。

また、ドワーフ隊に騎兵をぶつけるのではなく、歩兵でぶつかってきたら、その数で分断、各個撃破されていた可能性すらある。


「ドワーフ隊だけなら、騎兵をぶつけるのも悪くはないと思うが、その背後を守る存在があることに注意を払っていれば、騎兵だけで突入させることはなかっただろうな。」


「勝つためには、そこまで考えなければならないのですね。」


ジゼルは感心したように口にする。


「軍だけでなく、組織の上位に立つならば、考えられることは可能な限り考えるものさ。」


リュウヤはジゼルに答えると、リョースアールヴのイルマリとデックアールヴのカッレを呼ぶ。


「両アールヴは、パドヴァ軍を孤立させないように支援に入れ。」


「はい!」


ふたりは同時に返事をすると、すぐに隊を率いて行動に移る。


「どうしたのですか、陛下?」


何かの布石だろうか?ジゼルは疑問を口にする。


「こちらの中央はドワーフ隊だからな。足が遅いから、どうしても両翼に比べて出遅れてしまう。」


そうなると、両翼が突出してしまうことになる。

騎兵中心のイストール王国軍は、敵とぶつかっても一撃離脱ができるが、歩兵中心のパドヴァ軍はそうはいかない。最悪、敵に包囲される可能性もある。

そうさせないために両アールヴ隊を派遣したのだ。


「ドゥーマ。ドヴェルグ隊は、ドワーフ隊とイストール王国軍の間に入って、敵を牽制してくれ。」


ドゥーマは一礼すると、すぐに行動に移す。


戦いは中盤に入ろうとしていた。



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