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龍帝記  作者: 久万聖
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使者

斥候からの報告で、王都グラーツより3万の軍の出撃を知ったリュウヤは、ここで軍議を開くことにする。


戦うことは既に確定・・・、というよりも、周囲がそれ以外の選択肢を与えてくれない。


その代表者がドワーフのバトゥ王である。


「先鋒は譲らん!」


と、軍議が始まる前から宣言している。


また、エルフたちもその忠誠を示すためにも、戦いは絶好の機会であり、先鋒はドワーフに譲ったとしても、第二陣は譲れない。


そのため、軍議はどういう布陣をするかで紛糾する。


その結果ーーー。


先鋒はバトゥ王率いるドワーフたち。


第二陣がドルア指揮下のエルフ隊。


右翼にイストール王国軍。


左翼にグィード指揮下のパドヴァ軍。


そして、残りが本隊を形成してリュウヤの直率となる。


「出番はなさそうですね。」


とはテオダートの言葉。

その言葉に完全に同意する。


「お前たちには不満かもしれんな。」


リュウヤの直率部隊に加わった者たちに声をかける。


「不満なんぞありません。皆のお手並み拝見と洒落込む所存です。」


スティールはそう言って笑い、皆もそれにつられて笑う。


軍議の後、再び進軍が開始される。






夜。


オスト王国の使者と名乗る者が、リュウヤの元に連行されてきた。


「この後に及んで使者?」


なんのための使者なのだろうか?


「私は、ラスカリス候より派遣されましたパウル・ゲーデルと申します。」


「俺がリュウヤだ。この後に及んで使者とは、如何なことかな?」


「我が主人、ラスカリス候は講和を望んでおります。」


「講和?」


「はい。」


パウル・ゲーデルという男は、オスト王国の内情を赤裸々に話し始める。それこそ、リュウヤがそこまで言っていいのかと思うほどに。


「そこまで話してよいのか?」


リュウヤの問いかけに、


「信用を得るためなら全てを包み隠さず話せ、主人にはそう言われております。」


こういう状況だからこそ、相手の懐に飛び込んで信を得ようということか。


「それから、貴族連合軍の予想経路をこちらに書いてあります。」


懐から丸めた羊皮紙を取り出し、リュウヤに渡す。


リュウヤは苦笑しながらそれを受け取る。


競争相手、もしくは対立する勢力が相手の行動を敵に知らせる。


豊臣秀吉の朝鮮出兵の時にあったなあと、思い出す。


講和をなんとしても進めて早期解決を図る小西行長が、その対立相手である加藤清正の行動を李氏朝鮮に伝えていたことがある。

その時は、李氏朝鮮側が小西行長の通達を信用しなかったため、影響はなかったのだが。


「心遣いに感謝する。この功には、必ず報いよう。」


「ありがとうございます。」


パウル・ゲーデルは一礼すると、この場を辞した。




「彼の者の言葉、信じられますかな?」


パウル・ゲーデルの話をともに聞いていたスティールが、リュウヤに疑問を呈する。


言いたいことは理解している。


普通に考えるならば、味方の経路を教えたりしないし、宮廷内の権力構造や争い、状況を教えなどしない。


「信じてもいい、そう思っているけどな。」


「その理由をお聞かせください。」


ギイやエストレイシア、フェミリンスやアデライードがいない現状では、こうやってズケズケとものを言ってくれるのは、このスティールかナスチャくらいしかいない。


おかげで、自分の脳の活性化を図れる。


「それなりに筋が通っているからな。」


こちらに情報を流すことで、自分たちの信用を得て少しでも有利に講和を纏めたい。

いや、正確にはオスト王国を少しでも現状に近い形で残したい、そういうことだろう。

そのためには味方を売ることも躊躇わない。


見る者がみれば、"売国奴"と呼ぶかもしれない。

だが、国の存続を考えるならば、ラスカリス候とやらの行動は正しい。


「それに、場合によってはラスカリス候とやらは、オスト王国の歴史に悪名を残すことになるだろう。それを覚悟しての行動だよ、これは。」


「なるほど。」


「それに、敵の貴族連合軍とやらの動きは、既に把握しているのだろう?」


「それはもちろん。」


スティールは笑みを浮かべている。ユーリャが見たら「悪そうな笑顔」というであろう笑み。


「それにしても、ラスカリス候とやらとの交渉は、随分と手強いことになりそうだな。」


覚悟を決めた相手とのやりとりというものは、手強くなるものだ。しかも、自国の状況を正確に把握しているとなれば。


暫しの沈黙の後、リュウヤは羊皮紙と地図を広げているスティールに尋ねる。


「会敵はどの辺りになるかな?」


「ほぼ間違いなく明後日、このクラーゲンフルト平原になりましょう。」


「皆に伝えているか?」


「はい。おかげで、バトゥ王率いるドワーフ軍の士気が高まっております。」


その言葉にリュウヤはニヤリと笑った。


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