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龍帝記  作者: 久万聖
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それぞれの動き

降伏したオスト王国軍約5千を引き連れて、ギュッシングに入る。

当然ながら、武装解除をしている。


オスト王国軍捕虜は手当を施したうえで、複数の施設に収容されている。


そして、アルカンが本営と定めた街の中で最も大きな建物、そこで龍王国(シヴァ)軍とセルヴィ王国軍の主だった者たちによる会議が行われていた。


「そんなことが飲めるか!!」


激昂するアルカンの怒声は、この広い建物の外にまで聞こえていた。


「抑えろ、アルカン。」


シニシャが窘める。


窘めてはいるが、だからといってアルカンの気持ちを否定しているわけではない。


「これが言わずにいられるか!多くの犠牲を出して、やっと取り戻したこのギュッシングを放棄するなんぞ、認められるか!!」


そう、エストレイシアは次段階の作戦として、ギュッシングの一時的(・・・)な放棄を提示したのだ。


一方のエストレイシアは呆れている。

まだ作戦の詳細を話していないにもかかわらず、まるで脊髄反射で反対している。


「人間族というのは、話を最後まで聞くということができないのか?」


アンセルミらが作った貴重な時間を、こんな脊髄反射で浪費したくないのだが。


「なんだと!?」


エストレイシアの呆れたような口調が、自分を馬鹿にしているように感じたのだろう。アルカンは立ち上がると同時に右手を左腰に下げている剣の柄に手をかける。


シニシャがアルカンを止めようとする。


「それを抜くということが、何を意味するのか理解しているのですか?」


そのシニシャよりも早く声をかけたのはフェミリンス。


ここで剣を抜けば、それは即同盟破棄となる。

そうなったら、コスヴォル奪還は覚束なくなる。

その一方で、龍王国は単独でオスト王国と戦える。元々はその方針だったのだから。

それだけではない。

この場で剣を抜くとなれば、敵対行為と見なされても文句は言えない。そうなったら、セルヴィ王国は龍王国とオスト王国を同時に敵に回すことになりかねない。


アルカンは激発しそうになるのをなんとか堪え、


「頭を冷やしてくる。俺がいなくても、決められることは決めておいてくれ。」


そう言うと部屋から出て行く。


「部下が申し訳ない。」


アルカンが立ち去るのを確認したシニシャは、エストレイシアらに頭を下げる。


「貴方も大変だな。感情に走りやすい部下を持つと。」


シニシャは苦笑する。それと同時に、彼女らが仕えるリュウヤという男に恐怖を覚える。

ただでさえ強大な力を持つ男が、こういう有能な部下を持つ。

もし、アルカンがあのまま剣を抜いていたら。そう考えるとゾッとする。

そんな考えを振り払うように、シニシャは次段階の詳細な説明を求める。


そして、エストレイシアが詳細を語り始めると、シニシャは大きく頷くことになった。











マティアスがヴァイゲル子爵の敗北を知ったのは、ギュッシング城下の戦いの2日後だった。


これは、ギュッシングが陥落したために、ヴァイツ経由での伝達だったためである。


マティアスは即決で命令を下す。


「直ちにギュッシングへ向かう。」


敵は両軍合わせても7〜8千。

それに対して派遣されたのは1万。

数で上回っており、またヴァイゲル子爵はもちろんだが宿将ハース将軍もいる。

敗れたとしても、相当な被害を与えているだろう。


「奴らを撃破できずとも、追い払うことができればこちらの勝ちだ。」


もっとも、激戦を終えた後なのだから、撃破するのも容易いはず。


マティアスは改めて指揮下の全軍に号令する。


「ギュッシングにて敵を撃破する!」


マティアス麾下の軍1万5千が、ギュッシングへと向かっていく。






その頃、リュウヤはのほほんと湖で釣りをしていた。

その傍らにはサクヤもおり、またリュウネ、ミーティア、シズカ、トモエ、ナスチャ、アルテアもいる。


「ギイは、用もないのにアルナック村に行っているそうですよ。」


アイニッキからそう聞いているらしいサクヤが、リュウヤの隣で釣竿を持って報告する。


「なんだかんだ言っても、親としての心は捨てられないんだろうな。」


長老格のドヴェルグたちにも、ダグとギドゥンを許そうという流れになりつつあるという。


後は、なんらかの実績をあげることができれば、岩山の王宮への復帰もできよう。


「ええ。アルナック村から帰ってくると、どこか嬉しそうにしているそうですよ。」


そう言いながら、サクヤは釣竿をあげる。その先には大きな魚が掛かっている。


大物が釣れて、サクヤとリュウネはきゃっきゃとはしゃいでいる。


「すげぇなあ、王后(おきさき)さまは。それに引き換え・・・」


ナスチャはリュウヤの方を見る。


最初の方こそリュウヤも釣れていたのだが、途中からはアタリすらない状況が続いている。


ナスチャがサクヤのことを"王后(おきさき)さま"と呼ぶことを、誰も咎めない。

はじめの方こそ、当の本人であるサクヤは恥ずかしがっていたのだが、


「そろそろ、その呼び方に慣れてもよいのでは?」


そう周りに言われて、容認するようになった。

とはいえ、公式の場でそう呼ぶのは禁止としている。


「陛下。釣りなどしていても良いのでしょうか?」


トモエは、戦いに出ている者たちがいるのに、遊んでいてもいいのだろうか、そう問いかけている。


「いいんだよ。ここで待つ約束だからな。」


ここで待つ約束?


「約束とはいったい・・・。」


トモエが言いかけたとき、背後から近付いてくる者がいた。


「何者か!」


シズカが誰何(すいか)する。


「私です、アンセルミです。」


戦いに出ていたエルフのアンセルミが両手を挙げて、近付いてくる。


「お前が来たということは、順調に進んでいるということだな。」


「はい。シニシャ殿が来て、計画は多少変更しましたが、ほぼ計画通りに進んでおります。」


「そうか、ならばそろそろラスタ村に行くとしようか。」


リュウヤは釣竿をアルテアに渡し、立ち上がる。

その釣竿を見てナスチャは、


「なんだ王様(おーさま)、針がついてないじゃないか。」


「俺の獲物は、途中から魚じゃなかったからな。」


「魚じゃない獲物?」


「エストレイシアが自ら囮になってくれたからな。」


オスト王国へ進撃する第二陣にして、龍王国の主力をラスタ村に集結させている。

それを、リュウヤ自身が親率する。


「サクヤ、悪いが留守を頼む。」


「はい、陛下。」


「それから、トモエを連れて行きたいのだが、よいか?」


「トモエを?」


「暴れたそうにしているからな。」


リュウヤの言葉にサクヤはクスクスと笑う。


「はい。どうぞトモエをお連れしてください。最近は、訓練でもやり過ぎているようですから、しっかりと暴れさせてあげてくださいな。」


そのサクヤの言葉で、トモエの参軍は決定された。

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