表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍帝記  作者: 久万聖
219/463

宿将

コスヴォルへと向かった1万の軍。

指揮を執るのはヘルムート・ヴァイゲル子爵。


爵位はあれども領地を持たぬ、一代貴族と呼ばれる貴族である。


一代貴族には武功を立てた者を取り立てることが多く、武功派ともよばれる。


ヴァイゲル子爵本人は、元々は"王国騎士"という下級貴族であり、若い頃より戦場に身を置くことで、一代きりとはいえ爵位をいただく身となった。


一代貴族とはいえ、爵位を持つまでに至ったヴァイゲルは無能とは程遠い人物である。

そして、その部下にも優秀な人材が多くいる。


彼は、アルカン指揮下の虎部隊(ティグレ)がヴァイツに迫っていることを知ると、騎兵1千を抽出してギュッシングを突く動きを示す。


アルカンもその動きを知ると、ビナ指揮下の騎兵に対応させると同時に、自身の指揮する部隊もギュッシングへ整然と後退させた。


「王宮の現場を知らぬ者どもは、"獰猛なるアルカン"などと呼んでいるそうだが、ただの獰猛な男なら苦労はせぬわ。」


整然と後退する様子を見て、ヴァイゲルは言う。


斥候の報告、目の前で後退して行く様を見るに、コスヴォルに侵入したのはおよそ4千。

互いに1千騎の騎兵をギュッシングへと向かわせているから、9千対3千。3倍に達する敵を前にして、整然と後退できるというのは、尋常ならざる統率力の持ち主だ。


「うわさ以上に手強い相手だぞ、アルカンという男は。」


部下たちを前に感嘆してみせる。


「そうですな。」


ヴァイゲルの部下たちの中だけでなく、ヴァイゲルよりも年長である、ヨハン・ハース将軍が応じる。

ハース将軍は、一兵卒からの叩き上げで将軍と呼ばれる地位に就いた、オスト王国の立志伝中の人物である。

気さくな人柄と、その戦歴から兵士はもちろん、一般の市井の者たちからの人気も高い。

そして、今回の軍の副将格でもある。


「ハース将軍、私はこのままヴァイツに入ろうと思いますが、将軍はどのようにお考えでしょうか?」


主将たるヴァイゲルも、この老将を無碍に扱うことはできないし、そのような気もない。

この老将は、自分たち年少者を軽んじる人物ではないし、むしろ年少者を立ててくれる人格者としても知られているのだ。


「それがよろしいかと。ヴァイツにて兵に休養をとらせ、その間にセルヴィ王国軍への対応を考えましょう。」


その言葉にヴァイゲルは頷き、そのように指示を出した。






一方のアルカンは、オスト王国軍の対応に軽く拍手していた。


「すぐに追撃してくると思ったんだがな。」


そうしたら、反撃に打って出て痛撃を食らわしてやったのに。


そう考えていたのだが、ここは相手の方が一枚上手らしい。


さらに斥候からの報告では、兵に休養を与えているという。


「しっかりと、準備を整えてから来るってことだな。」


アルカンの隣に立つビナは面白くなさそうに言う。

実際のところは、面白くないどころの状況ではない。


相手はこちらよりも多数の兵で、準備万端に整えて来るのだ。

こちらに付け入る隙を見せない、そういうことだろう。


こうなると、生半可な奇策では通用しない。


「知ってるか、ビナ?」


「何をだ?」


「相手には、バースの爺さんが来ているそうだぜ?」


「あのバースか・・・。」


オスト王国の宿将中の宿将。

数年前、コスヴォルを失った時にもその軍中にいた。


あの時、アルカンらは宿将の老練な用兵に翻弄されたものだ。


「今度は、あの時のようにはいかねえぜ。」


アルカンらの口元には、不敵な笑みが浮かんでいた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ