オスト王国の対応
オスト王国の王宮は混乱していた。
「なぜこんなことになっておる!?」
国王アリボ2世の言葉は、この場にいる全ての者の疑問でもある。
2日前に、龍王国が突如として侵攻、国境の砦フィラハをわずか3時間で攻め落とした。
更に翌日、ー現在の日付からすれば昨日ー、セルヴィ王国がコスヴォルへの侵攻を開始したという凶報が入る。
まさか、あの両国は手を結んでいたのか?
当然ながら、そういう疑問も出てくる。
そして、ほんの1時間ほど前にフィラハからもたらされた情報。
正確には、解放されたフィラハの守将が駆け込んで来た結果、もたらされたものだ。
「奴らは、国王暗殺に我が国が関与していると、それを口実に攻めてきたのです。」
これが、宮廷の混乱に拍車をかける。
誰がそんなことをしたのか?
それ以前に、そんなことが本当にあったのか?
何もわからないのだ。
状況からするならば、たしかに我がオスト王国にはその動機がある。
ニシュ村の帰属問題で対立しており、また国境も確定していない。これまでも、極々小規模な衝突はあったのだから。
とはいえ、本格的な衝突はもう少し先だと考えていた。
龍王国は、いかに強兵の国といえども、そうそう他国と争うことはないだろうと見ていたのだ。
相手はまだ内政を充実させるべき時。
だから、龍王国がこちらと戦う体制を取るのはあと1年は先。
その前にこちらが体制を整え、冬がくる前に先制攻撃をするつもりでいたのだ。
昨冬は、あの地は豪雪に見舞われていたのだから、雪によって軍事行動は制約される、そう踏んでいた。
なのに、あの国はようやく夏になったばかりの今頃に、攻撃を仕掛けてきた。
あの国は、すでに戦う体制を整えていたのか?
セルヴィ王国とはいつの間に、そんな関係になったのか?
更なる凶報が王宮にもたらされる。
「ギュッシングが陥落しました!!」
駆け込んできた衛兵が、絶叫するように報告する。
ギュッシングは、コスヴォル地方の要衝である。
ここを抜かれると、コスヴォル最大の都市ヴァイツを指呼の間に捉えることになり、またコスヴォル地方の穀倉地帯を奪われることになりかねない。
「攻め込んできたのは、虎部隊です!」
攻め込んで来たのが虎部隊なら、その指揮官は獰猛なるアルカンだ。
最早、躊躇している暇など無い。
コスヴォル地方へ向けて1万の援軍を差し向け、また龍王国への対応として1万5千の兵を差し向けることが決定された。
これは、オスト王国の総兵力の5割に達する規模の動員であった。