表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍帝記  作者: 久万聖
214/463

傭兵たち

時間を、リュウヤがアンジェロらに襲撃された日の朝まで遡る。


ニシュ村にて傭兵隊隊長を務めるシニシャは、集まってくる部下が少ないことに気づいた。


「来ていないのは、アンジェロの隊か。」


いればいたで、いなければ居ないで目立つのが、アンジェロの隊だ。

はっきり言って、規律を守る気のない隊であり、とても扱い辛い隊だ。

それでも使っていたのは、戦いになればそれなりには使える者たちだったからに他ならない。


「何か知っている者はいないか?」


そう、集まっている者たちに問いかける。


「アンジェロたちなら、胡散臭い神官となにか話してたぜ。」


そう答える者が現れると、


「勝手に仕事を請け負ったんじゃねえの?」


そう応じる者が現れる。


「そういや、いくつかのグループにも声をかけてたな。」


よくよく見ると、アンジェロの隊以外にも、いくつかのグループがいない。


こうなると、アンジェロの隊を切るのも仕方ないかと思う。

戦場でも同様に勝手な行動をとられては、残された者達がたまったものではないのだから。


「シニシャ!!」


シニシャの名を大声で叫びながら、駆け寄ってくる恰幅のよい女性が現れる。


「どうした、イヴァナ?」


このニシュ村の村長夫人であるイヴァナは、息を整えると、


「大変だよ!!龍王国(シヴァ)がオスト王国に進撃を開始したって!!」


「なに?本当か?!」


疑うのも仕方がない。

昨日まで、そんな気配は感じられなかったのだから。


「なんでも、お忍びで村々の視察をしていた王様を、オスト王国の手の者が襲撃したんだって!!」


「!!」


シニシャは驚きのあまり、声が出ない。

あの、噂によれば絶大な戦闘力を持つ龍王国の国王リュウヤを襲撃する?


たしかに、相手の主要人物を暗殺することで、自国に有利な状況を作ることはある。

だが、それは失敗すればとんでもないことになりかねない、諸刃の剣そのものなのだ。


しかも、お忍びとはいえ、あの国王に暗殺の刃を向けるものなのか?


「それと、襲撃したのはアンジェロたちだって。」


「なに?」


その言葉を聞いた者たちが、ざわつき始める。

ざわつき始めた理由は簡単だ。

自分たちも、その巻き添えを喰らう可能性に思い当たったから。

同じ傭兵部隊にいたとなれば、自分たちにも嫌疑が降りかかるのは自明というもの。


「落ち着け!」


シニシャが一喝すると、傭兵たちは静まり返る。


「もし、俺たちが関わっていると判断されていたなら、とっくに攻撃されている。それがないということは、俺たちは無関係だと判断されたってことだ。」


その言葉は、大きな説得力を持って傭兵たちに受け入れられた。

すると、襲撃者とオスト王国との繋がりはなんなのか?


「そういや、アンジェロはどこの出身だ?」


ふと、シニシャは疑問を口にする。

今回の派兵は、牽強付会に類いするものなのではないか?

襲撃者の中にオスト王国出身の者がいて、それを口実に兵を動かした・・・。


「アンジェロなら、確かオスト王国出身だよな?」


「ああ、本人が言うには、貴族の息子サマとかなんとか。」


貴族と言っても、ピンからキリまである。

よほどの大国の大貴族ならともかく、小国の貴族などというものは、名ばかりのものが多い。

オスト王国にしても、イストール王国に次ぐ地域大国ではあるが、中流以下の貴族では後継ぎとなる長男と、そのスペアとなり得る次男までならともかく、三男以降となると生活などできるものではない。


そのため、三男以降は他の貴族の養子となれれば最良で、実際には食いつなぐために軍に入るかくらいしか道はない。

あとは、国を出て傭兵にでもなるか。


おそらく、アンジェロは国を出て傭兵になったクチなのだろう。

そして、この辺りでは大国であるオスト王国の貴族の出であるということが、彼にとって少なからず矜持であり、いざという時の命綱だったのではないか。

今回、捕らえられた後の尋問で、オスト王国出身であることを話し、それをもってオスト王国への出兵の口実とした。


そう考えると、ひとつに繋がっていく。


ならば問題は、その王様は今どこにいるのか?


「王様は今、大地母神(イシス)の聖女様と行動を共にしているそうだよ。」


イヴァナの言葉を聞くと、


「いいかおまえたち!王様を探せ!ここで俺たちを売り込み、手柄を立てるんだ!!そうすりゃ、仕官だって夢じゃねえ!!」


傭兵というものは不安定な仕事でもある。可能であるならば、仕官をすることで安定した生活を送りたいと考える者も多い。

シニシャの言葉は、そういった者たちを鼓舞した。

皆、一斉に聖女とともにいる国王を探しに走る。

国王の顔は知らずとも、聖女ユーリャの顔を知っている者は多いのだ。

そう時間をかけることなく、探し出せるに違いない。


その一方でシニシャは、自分の腹心を呼ぶと、


「急いで国に戻り、アルカンに伝えろ。麾下の全軍をもってオスト王国に向かえと。」


そう指示をする。





そして、傭兵たちがリュウヤを見つけたという報告を、昼頃に受けたのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ