表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍帝記  作者: 久万聖
212/463

報告と、ギイの涙

王宮に戻ると、すでに報告を受けていたサクヤやアデライードらの出迎えを受けた。


リュウヤは出迎えた者たちに労いの言葉をかける。

特に、急な出兵で迷惑をかけたアデライードには念入りに。


王宮、玉座の間にて居並ぶ廷臣らに帰還の挨拶を済ませると、詳しい報告は翌日に行うことを伝えるとともに、シニシャのことを伝え、セルヴィ王国との関係の協議に入るための準備をするように命じる。


そして、ユーリャを皆に紹介するとともに、大地母神神殿とやりあうことを宣言する。

やりあうといっても、実際に戦うというより、ユーリャを渡さないための舌戦と、大地母神神殿の分断を図るのが狙いである。

ただ、ユーリャを抱えるということは、龍王国(シヴァ)にとっては始源の龍と並んで、大地母神(イシス)が事実上の国教と位置付けられることになるだろう。

これは、リュウヤ自身にその意志がなくとも、大地母神の聖女を迎え入れたという事実が、周囲にそう見做されてしまうのだ。


必要なことを伝えると、ここで今日は解散となる。


女官長ウィラに命じ、ユーリャの部屋を用意させ、アルテアには今日はもう休むように命じる。


さらにシズカ、マテオ、ナスチャを労いの言葉をかけ、休むように伝える。


皆が解散し、この場に残ったのはサクヤとトモエ、アデライード、ドゥーマの4人。


「随分と思い切ったことをしましたね。」


アデライードは呆れたように言う。


「思い切ったとは、何を指しているのかな?」


答えはわかりきってはいるのだが、とりあえず聞いてみる。


「今回の主だった報告三件、その全てです。」


オスト王国との開戦に踏み切ったのもそうならば、セルヴィ王国の元王弟の提案を受け入れたのもそうだ。

そして、ユーリャの受け入れ。

これは大地母神神殿と、相当な軋轢を産むことが予想される。


「大地母神神殿の権威を分断するのが目的なのでしょうが、相当に揉めますよ?」


間違いなく、大地母神神殿は聖女ユーリャの身柄を要求するだろう。


だが、身柄そのものはすでにこちらの手の中にある。

むしろ、こちらで神殿を建ててそこにユーリャを打ちたて、大地母神主神殿に抗することになる。


「揉めるのは承知の上だ。だが、今はそれよりも・・・」


そう言ってサクヤを見る。


「ギイとアイニッキはどうしている?」


「アイニッキは自室に戻っているのですが、ギイは・・・」


どこかに行っているということらしい。


「そうか。」


リュウヤはそう答え、それが合図であるかのように解散した。











玉座の間から出た後、リュウヤは酒が入った何本かの土瓶を持ち、始源の龍のいる大扉の前に向かう。


ここからなら、アルナック村まで見通せる。

ギイが居るならば、ここだろうとアタリをつけていたのだが、それは間違っていなかった。


ギイはすでに酒を飲みながら、アルナック村の方を見ていた。


「隣、いいか?」


疑問符がついてはいるが、実際にはただの確認である。


ギイは一瞥しただけで、何も答えない。

それを了承と捉えたリュウヤは、ギイの横で持ってきた酒を飲む。


しばらくの間、沈黙が流れる。


その沈黙を破ったのはギイだった。


「息子らが生きていたとはな。」


リュウヤは何も答えない。

ギイがリュウヤの言葉を求めていないことがわかるから。


「あれから100年。なんの報せもないから、死んでたとばかり思ってたよ。」


「・・・・・・。」


「あんな馬鹿息子どもでも、生きていてくれている、生きていたと知ったら、嬉しいものなんじゃな。」


そういうと、手に持っているカップの酒を一気に煽る。


「あいつらを抱きしめてやりたい。よく生きて帰ってきた、そう言ってやりたい。じゃが、そういうわけにはいかんのじゃ。」


ドヴェルグの(おさ)という立場。それが、ギイの想いを妨げる。


リュウヤは黙ってギイの激情を受け止める。


「あの馬鹿息子ども・・・・・」


そこからは、言葉にならない。

ただ、ギイの嗚咽(おえつ)が溢れていた。


リュウヤはただ、ギイの隣に黙って座っている。



その光景を、サクヤとアイニッキは物陰から見ていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ