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龍帝記  作者: 久万聖
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終戦

あっさりと終わっています。


あっさりし過ぎたかな、という反省も。


「陛下ー!!」


 騎兵150騎が、ラムジー四世を守るべくリュウヤに向けて突入してきた。もっとも、近衛を崩壊寸前に追い込み、国王に迫っているのがたったひとりだとは思いもしなかっただろうが。

 先頭を走るデュラス男爵が気づいた。


 "たったひとりだと!?"


 一瞬、驚きはしたがそのまま突入する。

 リュウヤはデュラスの鋭鋒を難なく避けると、その後ろを追走していた騎兵を叩き落とし、その騎馬を奪い、デュラスを追走する。

 あっさりと馬を奪ったことに、リュウヤ自身、とてつもない驚きなのだが、デュラスも驚いていた。

 奇襲だったはずなのに、そんなにも早く気持ちを立て直せるものなのか?

 リュウヤは馬首を返し、後続の騎兵に向かう。突き出される槍を躱すと同時に、槍を掴み奪いとる。"尉遅敬徳かよ"と呆れるリュウヤ。



 "尉遅敬徳。隋末唐初の武将であり、唐の太宗李世民に仕えた武将として知られる。槍の名手として知られ、戦いで怪我をひとつもしなかったといわれる。尉遅敬徳はある戦場において、武器を持たずに敵中に乗り込み、敵の槍を奪って戦い、武勲を立てたという。"



 どんどん人間離れしていくことに、もはや諦めの心境である。

 迫り来る騎兵を、次々と薙ぎ倒し落馬させていく。殺すことが目的ではなく、無力化することが目的の戦い方だ。

 デュラスは内心の驚愕を隠し、リュウヤの前に立つ。

 落馬させられた部下たちを見るに、怪我はしているだろうが、命に別状はないようだ。こんな戦い方は、余程の実力差が無ければできない。デュラスは自分の部下を信じている。彼らは決して弱くはない。共に戦場を駆け抜けてきたからこそ、そのことを知っている。だが、目の前の男はそんな部下たちを子供扱いしてのけたのだ。


「一騎討ちを所望されたい。」


 勝ち目は無い。だが、少しでも時間を稼ぐことができれば、それだけでも王を逃がすことができる。ラムジー四世は愚王だと思うが、それでも王なのだ。


「いいだろう。一騎討ちを受けよう。」


 デュラスの挑戦を受けるリュウヤ。

 その間に、生き残っている近衛兵たちはラムジー四世を中心に円陣を組み、離脱を図る。


「感謝する。」


 目の前の男は、明確にこちらの意図を理解している。時間稼ぎなどというつもりでは、簡単に敗れよう。


「いざ、勝負!!」


 鋭い突きをいれるデュラスだが、簡単に弾かれる。

 二合、三合と打ち合う。そこから相手の攻撃が鋭く、重くなってくる。二回に一回の反撃が、三回に一回、五回に一回となっていく。そして、防戦一方となるのも時間の問題だ。ジリ貧になる前に仕掛ける。

 防戦一方に見せ、わざと隙を作る。それに、リュウヤが乗った。

 リュウヤの重く、鋭い一撃を耐え、渾身の一撃を繰り出す。たとえ勝てずとも相討ちを!!

 次の瞬間、デュラスの槍は躱され、リュウヤの一撃を受けて落馬した。



 ジゼルは信じられない思いで一騎討ちを見ていた。

 養父デュラスは強い。何度も稽古をつけられているが、一本も取れない。また男爵家家臣団の訓練でも、誰も敵わない。そんな養父が手も足も出ない。そんな相手がいるなんて・・・。

 養父がいつ敗れてもおかしくない状況に、ジゼルにひとつの思いが芽生える。

 養父に死んでほしくない。自分のためではなく、母のために。そして、新たに産まれてくる命のために。

 槍を持つ手に力を入れる。

 デュラスが渾身の一撃を繰り出す。

 今なら誰も自分に注意を向けていない。ジゼルは馬の腹に蹴りをいれ走らせる。槍の穂先に、リュウヤに狙い定めて。



 リュウヤは気づいていた。

 背後の不穏な気配に。

 デュラスの渾身の一撃を躱しつつ、一撃を加えて落馬させる。次の瞬間、リュウヤは槍を手放して馬上から跳んでいた。

 ジゼルの槍はリュウヤを捉えることなく空を突いていた。唖然とするジゼル。完全な不意打ちだったはずなのに。なぜ、あれを躱せるのだ?

 ジゼルの馬は、リュウヤが乗っていた馬にぶつかり、体勢を崩したジゼルは落馬する。

 地面に叩きつけられる、そう覚悟したがその衝撃は来なかった。落ちる前にリュウヤに受け止められていたのだ。


「なかなかいい攻撃だったな。」


 声をかけられて驚く。あの状況で自分を助けるなんて・・・。


「ジゼル!!なんてことを!」


 身体の痛みに耐えて起き上がるデュラス。


「一騎討ちのさなかに不意打ちをしようとするなど!」


 ジゼルを叱責する。


「そんなに責めることもないだろう。」


 そういってリュウヤはジゼルを降ろす。

 降ろされたジゼルは、デュラスのもとに駆け寄る。


「養父上!」


「この愚か者が!!」


 口ではそう言うが、ジゼルが無事なのが嬉しいのだろう。しっかりと抱きしめている。


 デュラス男爵は降伏した。

 逃げたイストール王ラムジー四世は、捕まっていた。

 シヴァとふたりの従者によって。

 ラムジー四世はデュラスを見ると、


「デュラス!!此奴らを討て!討って余を助けるのだ!!」


 そう喚く。


「残念ながら、私は龍人族に降伏いたしました。ゆえに、勅命といえど受けることができませぬ。」


 その返答を聞いたラムジー四世は、デュラスを口汚なく罵る。


「いい加減にしろよ、バカ王。」


 リュウヤが多分に怒りを含んだ声で言う。


「そんなにオレを討ちたいなら、自分でやったらどうだ?」


 途端に黙る。先程まで、近衛隊がリュウヤひとりによって崩壊寸前まで追い込まれていたのを見ていたのだ。そんなことできるわけがない。


「デュラス卿、このバカ王には兄弟はいるのか?」


「居ります。王兄フィリップ王子と王弟ウリエ王子のおふたりです。」


 王兄と聞いてリュウヤは引っ掛かりを覚えたが、口にはしない。

 口にしたのは別のことだった。


「デュラス卿、あなたには残兵をまとめてもらいたい。」

「わかりました。」


 敗軍の身であるのだ。否もない。

 だが、リュウヤが

 続けた言葉に驚かされる。


「そのうえで被害状況をまとめて、イストール王国まで帰国してもらいたい。全員連れて。」


 捕虜にするとばかり思っていたのに、全員を帰国させる?捕虜として返還交渉を行い、賠償を受け取ることが通常なのに?


「捕虜にしたところで、食わせることができないからな。」


 そうなると、暴動などが起きる可能性もある。それならば、さっさと帰す方が得策というものだ。

 説明を受けると、リュウヤの提案を受け入れる。


「それから、ジゼル君をお借りしたい。」


 思いがけぬ言葉に驚く。


「一足先に、バカ王を引き渡しにイストール王国の王都に行きたいのだが、その道案内をお願いしたい。」


 "道案内とはいうが、空を行くんだけどな"と続ける。


「わかりました。どうぞお連れください。」



 ジゼルを伴い、シヴァのもとに行く。

 巫女姫の従者ふたりに、


「君たちはどうする?」


 王都まで一緒に行くか、ここに残るか。

 ふたりは互いに顔を見合わせて、


「一緒に行きます。」


 監視するつもりなのだろう。

 ふたりはシヴァの背に乗る。

 リュウヤはジゼルが乗るのを手助けする。

 バカ王ことラムジー四世は、縄に括り付けている。


「さあ、行こうか。」


 その言葉を合図に、シヴァはゆっくりと上昇していった。

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