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龍帝記  作者: 久万聖
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ギドゥンの回想

「次は俺の話だな。」


ギドゥンは大きく息を吐き、話始める。


「脱出したのは6人。だが、俺も含めて全員が傷つき、五体満足なものはひとりもいなかった。」






脱出したとはいっても、追っ手がないわけではない。

しかも、逃げているのは今回のことの直接的な原因を作ったギドゥンなのだ。

今回、死んでいった者の遺族からしてみれば、最も許すことのできない存在だろう。


ギドゥンにもそれがわかっている。

だが、ここで殺されるわけにはいかない。もしかしたら他に生き残っている者がいるかも知れず、また捕らえられている者がいれば、それを助けださなければならない。


だから、ギドゥンらは必死になって逃げた。

暗い闇の森の中を。

月明かりさえ木の枝に遮られる中を。


鉱山で暗いところに慣れているドヴェルグでなければ、また頑強な身体を持つドヴェルグでなければとっくに捕まっていたかもしれない。

それほどに追っ手は執拗に、ギドゥンらを追いかけていた。


そして、逃げるドヴェルグもひとり、またひとりと倒されていく。


疲れ果てたギドゥンが森の奥の川辺にたどり着いたとき、仲間はおらず、ギドゥンはひとりになっていた。


それでも追っ手は近づきつつあった。


ボロボロの身体、すでに疲れ果てており身動きもほとんどとれない。


少しでも生き残る可能性があるのは・・・・・。


ギドゥンは自分の身体に鞭打つかのように動かして、川の中に身を投じた。


そして、ギドゥンは生き残るという賭けに勝った。


それを知ったのは幾ばくかの時が過ぎ、川下の人間族の村で救助されたことを確認した時だった。





「その村には、ドヴェルグの家族がいた。ここにいるバァルとサイダルの家族だ。そのふた家族は、元々はこの地にいた者たちであり、そして俺とも顔見知りだった。」


なるほど、ここでナスチャの報告が繋がるわけか。

リュウヤはナスチャを見る。

その視線を受けたナスチャは、自分の報告が間違ってなかったことを誇るように胸を張る。


「そのふた家族のおかげで、俺は傷を癒すことができたんだ。」


彼らは、ギドゥンを自分たちの知り合いの息子として(それは事実だが)周囲に紹介して、日常生活を送ることができるようにしたのだ。

同胞のお陰で心身ともに癒すことができたギドゥンだが、心は晴れない。


捕らえられた仲間が、鉱山奴隷として売られたことを知ったからだ。


バァルやサイダルの家族はこの地に長年居住しており、人間族の知己も多い。

そういった伝手(つて)を使って、ダグらの動静を掴んだのだ。


ギドゥンとしては、すぐにでも助けに行きたいところだったが、流石にそれは止められた。


「一人で行って助けられると思っているのか」


と。


それならばと、一番確実な方法をとることにしたのだ。

ダグらの身柄を買い取るという方法を。


そのために、ギドゥンはがむしゃらに働いた。

それこそ寝る間も惜しんで。


12人分の見受けをするための金を稼ぐのに、10年の月日が流れた。


さあいよいよという時、鉱山の崩落事故が起きた。

落盤事故による情報の混乱で、ギドゥンは身動きが取れなくなってしまった。

そして混乱が治った時、ギドゥンの元にもたらされたのは、その混乱の中、脱走した者がいることと、ダグが重傷を負って放り出されたこと。他の10人のドヴェルグは落盤事故により死亡したことだった。


そして、今度は放り出されたダグの捜索に時を(つい)やされることになった。


ギドゥンとしては、自分で探し出したいところだったが、"闇雲に探しても見つからない"と諭され、バァルやサイダルの家族の伝手を頼りにすることになった。


「大怪我をしたドヴェルグ」となれば、すぐに探し出せるだろうと思われたのだが、落盤事故により多数の重傷者が出たのだ。

そのうちの一人でしかないダグのことなど、誰も気に留めていなかった。

そのため、いくら聞き込みをしてもその行方はわからず、その怪我の状況も不明のままだった。


ようやくダグを探し出すことができたのは、更に数年の歳月が流れてのことだった。


見つかったのは完全な偶然。


バァルの家族の知り合いの商人が、ある町で右腕を失っているドヴェルグを見つけたという知らせを受け、ギドゥンが確認のためにその町に行ったのだ。

その時のダグの姿は、弟のギドゥンですらわからないほどに痩せ衰えていた。


それがダグだとわかったのは、


「ギドゥン・・・、か?」


そう言ったダグの声を聞いたからだった。


ギドゥンはダグを村に連れ帰ると、休ませた。


ダグの看病には、バァルやサイダルの家族だけでなく、村の人間族も協力してくれた。


それは、ギドゥンがこの村にいかに貢献したか、その指標であり村人たちの感謝の表れでもあった。


ダグの体調が回復し、長旅に耐えうる体力をつけるまでこの村に逗留することになった。







「それから、更に数年経ってからだ。この地に向けて出発したのは。」


ダグの身体は、長年の物乞い生活により相当に衰えており、数年の休養を持ってしても元のような頑強な身体を取り戻すことはできなかった。

それでも出発したのは、死んでいった者たちの、わずかな遺品を家族に届け、また故郷に帰してやりたかったからだった。



バァルとサイダルは、ダグとギドゥンだけでは道中の旅の危険に耐えられないと同行を希望し、家族もそれを認めたため、一緒についてきたのだ。


実際、この二人がいなければ旅は序盤で終わっただろう。

ギドゥンひとりでは、ダグを守りながら旅をするなどおぼつかず、早々に野獣に襲われて死ぬか、盗賊に襲われて死ぬかしていただろう。


ダグの体調に配慮しながらの旅は、必然として足が遅くなる。


それは長い旅の始まりとなった。

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