ダグの回想
辻褄を合わせるため、ダグらが旅立ったのは60年前から100年前に変更しました
ここでシズカとアルテアは、リュウヤに一礼して席を立った。
残るのはリュウヤとナスチャ。
ナスチャはここから離れてもよかったのだが、好奇心が勝ったらしい。
リュウヤとしては、好奇心でいてもらっても迷惑でしかないのだが、本人が離れるのを拒否している以上、黙認せざるを得ない。
「どこまで知っているのかな?」
ダグの言葉。これは、探りを入れるというより、リュウヤがどこまで知っているかの確認である。
「開拓地での出来事まで、だな。そこまでは、ドゥーマから聞いた。」
「ドゥーマか・・・。」
目を閉じて感慨にふけっているが、それも短い時間だった。
「脱出に成功したのは6人。ギドゥンはその中に入るが、俺は捕らえられた17人のうちに入った。」
捕らえられたのはドヴェルグ12名と、龍人族5名。合わせて17名で人数は合っている。
「脱出した者たちのことは、後からギドゥンにさせるとして、俺の方から話そう。」
捕らえられた者たちは、怪我が治ると二足三文で鉱山奴隷として売られた。治ると言っても、骨折した骨がようやくくっついたとかのレベルの治るである。
その後のリハビリどころか、体力の回復などということは考慮されていない。
反抗的なドヴェルグということもあったのかもしれない。下手に回復するまで待つと、再び手こずらされる可能性を考え、さっさと売られたのだろう。
また、同じ場所に置いておいてはいけないという判断もあったのだろう。12人はそれぞれ違う鉱山に置かれることになった。
鉱山での労働。
それだけならドヴェルグにとっては、大したことではなかった。元々が、鉱山で生活しているようなものだったのだから。
ただ、少ない食事で休みなく働かされることがきつかったという。
そんな環境が10年ほど続いた。
それだけの期間があれば、かつての自分たちの起こした事件の記憶も薄れていく。
一緒に捕らえられた仲間たちとも、共に働く機会が出てきた。
一緒に働くうちに、脱出の計画を立て始めた。
もっとも、その脱出計画は無駄になったが。
無駄になったその理由。
落盤事故が起きたのである。
少ない食事量で休みなく働かされる。
それがいつまでも続くのだ。
ダグらドヴェルグはそれでもまだ余裕があった。
だが、他の種族はそうはいかなかったのだ。
何が原因だったのかは、今となってはわからない。
ただ、坑道の最深部にいたダグらは落盤事故に巻き込まれた。
この時、一緒にいたドヴェルグは8人。その8人全員が生き埋めになり、かろうじて助け出されたのがダグともうひとりだけだった。そのもうひとりも、間も無く亡くなることになったが。
助かったとはいえ、ダグはこの落盤事故で右腕を失った。
その結果、もう鉱山奴隷として働くのは無理だとして、解放された。
解放されたとは言っても、片腕を無くしたダグには生きる糧を得る手段が無かった。
皮肉にも、解放されたことがダグを追い詰めたのだった。
「せめて、死んでいった者たちのことを皆に伝えねばと、それこそ物乞いになったよ。生きるために。」
どれだけの時が流れたのかわからない。
もはや、なんのために生きているのか、その目的も忘れかけた頃に、ダグを探していたギドゥンに再会した。
「こち亀」の大原部長の誕生日みたいにならないよう、気をつけます