工房にて
正直言って、とても足が重く感じるのだが、それでも行かなければならない。
リュウヤらはドヴェルグ、ダグやギドゥンらの工房の前まで来る。
扉を叩くと、若いドヴェルグが出てくる。
「少し早いと思ったが、頼んでいた物を取りに来た。」
「ルシウスさんですね。出来ていますよ。」
ルシウスと呼ばれて、一瞬、誰のことだかわからなかったのだが、すぐに自分の偽装身分であることを思い出した。
「入らせてもらう。」
リュウヤらが工房に入ると、ダグらが待っていた。
ダグの前のテーブルには、ふた振りのショートソードと一振りのロングソード、始源の龍の鱗を使った胸当が置かれている。
「ふた振りのショートソードは、そこのギドゥンが打った。ロングソードは、バァルが。胸当は、サイダルが製作した。」
ダグが名を告げた者が、それぞれの作品の前に立つ。
リュウヤ側も、それぞれを受け取る者をその作品の前に出す。
それぞれの使い手に合うように、微調整を行うためだ。
例えばショートソードなら、その柄の形状や使い手の手の大きさに合わせた大きさにする、などといったことだ。
バァルにはマテオ。ギドゥンにはナスチャ。サイダルにはアルテアが。
アルテアはサイダルと胸当の調整がつけば、ギドゥンのところにまわることになる。
「ルシウスさん、だったな。その腰の剣を見せてはもらえんかな?」
それぞれにばらけたのを確認して、ダグがリュウヤに話しかける。
シズカは仮面越しにリュウヤを見る。ダグの言葉、それはリュウヤの正体に気づいている可能性を示している。
ギイの息子が、その父の打った剣を見て気づかないはずがないのだから。
「どちらの剣を見せればよいのかな?」
リュウヤは普段からふた振りの剣を、腰に佩いている。ひとつは、イストール王国との戦いの際にギイから贈られた、この世界でもポピュラーな形状のもの。もうひとつは、ギイに頼んで打ってもらった日本刀に似せたものだ。
「できれば両方とも、見せてほしい。」
その言葉に、リュウヤは左腕しかないダグのために、ふた振りの剣を鞘から抜いて、目の前に並べる。
それを、文字通りに穴が空くほどに、じっくりと真剣に見るダグ。
日本刀風の剣を見ると、
「こんな物まで打つのか。」
そう呟き、そして、
「ルシウスさん、あんたは随分と気に入られてるんだな、この作者に。」
「それほどの業物かい?」
「ああ、間違いなく業物だ。製作者はおそらく・・・」
そこから先はリュウヤが遮る。
「この後、一緒に酒でも飲まないか?話は、その時でいいだろう?」
"陛下、それでは・・・"
ギイたちと一緒になる、そう念話でシズカが訴えようとしたが、
「そうだな。その方がいい。素面で話せることでもないからな。」
ダグが先んじるかのように返答する。
素面で話せることではない、その言葉になにか重みを感じる。
「では、決まりだな。」
3人は、それぞれの調整が終わるのを待ったのだった。