ナスチャの報告
この五日間でナスチャは、すっかりこの村の屋台の顔馴染みになったようだ。
行く先々の屋台から声をかけられている。
「ナスチャじゃないか。今日はなにを食べるんだい?」
「今日のおススメはなんだい?」
「今日なら、鳩の丸焼きだな。」
「じゃあ、それをくれ。」
あちこちの屋台でそんな会話を交わしている。
その結果、リュウヤらのテーブルには6人分とはとても思えない量の食べ物が並べられていた。
"どうするんだ、この量"と思っていたら、ナスチャの服から小さな蜘蛛が5匹現れ、食べ物を貪り始める。
その貪る勢いは凄まじく、大量の食べ物がみるみるうちに無くなっていく。
「こいつらにも食わせないとな。」
こともなげにナスチャは言うが、周囲から見たら、それこそ魔法か手品かと思うに違いない。
「その蜘蛛って、サスケやサイゾーの家族?」
素朴な疑問を口にしたのはユーリャ。
「いや、違う。デス・スパイダーって一括りにしてるけど、実際は色んな種類がいるからな。」
ナスチャは一匹一匹を並べ、背中の模様の違いを見せる。
リュウヤがかつて対峙したナゲナワグモに似たものも、デス・スパイダーと称されているし、同じく対峙した巣を作った蜘蛛もそうだ。
巨大な蜘蛛への恐怖から、しっかりと個体を判別したり、種を判別したりできなかったのだろう。
わずか1センチあまりの大きさの蜘蛛でも、悲鳴をあげる人間がいることを考えれば、そのことを責めることはできないだろう。
「それで、あのドヴェルグたちの情報ってのは、なんだ?」
「ああ、それな。ダグっていう右腕の無いドヴェルグ。奴隷だったらしいぜ。なんでも、鉱山事故で腕を無くして、それで役に立たないからって捨てられたんだとさ。」
その言葉に、リュウヤとシズカは顔を見合わせる。
捕らえられ、奴隷となった12人の一人にダグはいたということだ。
「その弟のギドゥンだっけか。こっちは奴隷にはなってなくて、知り合いのドヴェルグのところで匿われていたって。」
詳しく話を聞くと、あの戦いを落ち延びることができた6人に含まれていた。直接的なきっかけを作ったギドゥンが逃走することができたというのは、相当な皮肉だろう。
「残りのドヴェルグたちは、その親がこの地の出身なんだってさ。」
ダグやギドゥン以前に、この地から離れた者たちの子孫ということか。
「ダグとギドゥン。それと他の者たちは、いつ繋がりを持ったんだ?」
リュウヤの疑問に、
「ギドゥンを匿っていたのが、その一人だったんだと。そこから繋がりができたんじゃないか?」
ナスチャが推測する。だが、その推測が一番有力であることは間違いない。
すると、その者たちにギイはどんな認識を持つだろう?
ダグやギドゥンと同じく、この地を捨てた者の子孫という認識なのだろうか?
考え込みそうになるリュウヤだが、それを救ったのはシズカだった。
「ギイの認識は、ダグやギドゥンと、他の者たちでは違います。」
ギイは、ダグやギドゥン以前の者たちには、随分と手を尽くして受け入れ先を斡旋していたらしい。
取り引きをしていた商人をはじめ、それこそありとあらゆる伝手を使って。
それだけでなく、新たな地に行くにあたっての注意事項も、微に入り細に入り指導していたのだとか。
シズカがそのことを知っているのも、偶然その現場を目撃したからだ。
ならば、ダグやギドゥンへの認識は、どうなっているのだろう?
いや、そうではなく、ダグやギドゥンはどういう経緯でこの地を出たと、そちらを考えるべきかもしれない。
「少し早いが、行ってみるか。」
結局のところ、本人たちにぶつかるより他はないのだから。