論功行賞と次なる戦い
リュウヤたちは迎えに来たエストレイシアらによって、ロマリア村の神殿に入る。
その一方で、リュウヤらを置き去りにして戦いに向かったアカギら5人は、エストレイシアから「サクヤ殿のお小言の刑」に処されることが決定された。
彼らにしてみれば、置き去りにして戦いに向かったものの参加できず、それでいてサクヤの無限ループ地獄に落とされるという、まさに踏んだり蹴ったりな状況になったわけである。
また、この場にて簡易的な論功行賞も行われる。
なぜ簡易的かというと、捕虜となったアンジェロがオスト王国の者だと口にしたため、即座にオスト王国への軍事作戦を発動したからだった。
オスト王国の者だと口にしたということは、今回の騒乱にはオスト王国が関わっている言ったも同然なのだ。
アンジェロにしてみれば、自分の命を守るためのでまかせだったかもしれないが、それを聞いてしまった以上、関与を疑うことになる。
そして、その疑いを晴らすのはオスト王国となる。
オスト王国としては「寝耳に水」だろうが、一国の王を害しようとした者がそう口にした以上は、その責任を取ってもらうことになる。
出撃するのは、今回の部隊を主力として動員、さらに人間族の部隊500人余りを追加動員する。
追加動員された部隊の指揮官はコジモをあてるが、まだ若いため補佐役にデックアールヴから2人ほど付けることになる。
総指揮はエストレイシアが執る。
出撃は夜明け。
ただ、スティール指揮下の隊のみ、捕らえた賊徒の護送のために残留する。
「自分は、ちょくちょく陛下のお供で功を立てていますからね。たまには皆さんにお譲りしますよ。」
とは、スティールの弁である。
夜明けの出撃までの時間に、論功行賞を済ませる。
「第一は、ラニャたち兎人のものとする。」
ラニャたちは、ポカンと口を開けて呆然としている。
アンセルミがそんなラニャたちの背を叩いて、前に押し出す。
「ま、まままま、間違ってますよ!私たち、誰もやっつけてないし、戦ってないんですよ?それなのに・・・」
「それは違うぞ。」
リュウヤはそう言ってラニャたちを諭す。
「戦いとは、なにも戦場での出来事だけではない。そこに至るまでに、すでに始まっているものだ。お前たちは、敵の接近を知らせ、またその情報を総指揮官たるエストレイシアに伝えることによって、戦いを円滑に進めるようにできたのだ。特に、今回のような奇襲を察知するとなれば、まさに勲功第一だろう。」
「で、ですが・・・」
「ですが、なんだ?皆が何か言っているのか?なにも言ってはおらぬだろう。それは、皆がお前たちの勲功を認めているからだぞ。」
ラニャたちが周りを見回すと、皆一様に頷いている。
「と、いうことだ。アンセルミ、お前たちの隊の頭目を捕らえた功績を見事ではあったが、今回は兎人たちが上だ。」
今回の規模の戦いでは、こうなるであろうことはアンセルミも理解している。
「では、次は敵の将軍を捕らえることで、勲功第一の栄誉を賜りましょう。」
そのアンセルミの宣言に、他の者たちが口々に反応する。
「なにを言うか!それはワシらのセリフじゃ!」
「なにを言われますか!我ら人間族を忘れてもらっては困りますな。」
「おいおい、スティール隊がいないとはいえ、デックアールヴはいるんだぞ?」
「それを言ったら、リョースアールヴだっているぞ!」
これ以上、騒がせるとせっかくの休み時間がなくなってしまう。
そこでリュウヤは軽く手を叩く。
その音で喧騒が静まる。
「ひとつ言っておく。俺は生者に褒賞を与えるの好きだが、死者に褒賞を与えるのは好まぬ。故に、必ず生きて帰るように!」
無茶苦茶なことを言っていると思う。
戦えば、死者がゼロということはあり得ないのだから。
だが、リュウヤの言葉に歓声があがる。
「出撃までゆっくり身体を休めよ。」
エストレイシアがリュウヤの言葉を引き継ぎ、
「いつまでも騒ぐな。行軍が遅れるヤツは置いていくからな!」
エストレイシアならやりかねないと思ったのか、皆が静まり返る。
そして、それぞれの隊へと戻って行く。
「ふぁあ。」
「なんだ、気の抜けたような声をあげて。眠いのなら、自分の使っていた部屋で休んでいいのだぞ。」
欠伸のような声を出したユーリャに、リュウヤが声をかける。
「眠いわけじゃなくて、本当に王様なんだね。」
「一応、な。」
「でも、王様って、もっと威張ってるイメージがあったんだけどなぁ。」
「威張ってた方が良かったか?」
「ううん。今のままの方がいい!」
そう言ってリュウヤにくっつこうとするが、あっさりと躱されてしまう。
「むーっ!!」
ユーリャは抗議するが、
「少しでも眠っておけ。疲れたとぐずっても、その場に置いて行くからな。」
「むーっ!!」
ユーリャの抗議も虚しく、別々の部屋で休むことになったのである。