終結
100人程の者が、一斉に火矢をつがえる。
「やっと動き出したか。遅いな。」
敵の様子を見たエストレイシアが呟く。
「別働隊を待っていたのでしょう。」
フェミリンスが呟きに応じるように答える。
「当初の予定に拘り過ぎだ。だから、戦機を逃すことになる。」
別働隊が来ないなら、即座に次善の策を打たなければならない。だが、賊徒の首領はあくまでも予定に拘った。
そしてゾシムスが火矢を放てと命じようとした時、火矢を構えていた者たちが次々に倒れていく。
その眉間に寸分違わず矢が打ち込まれている。
「な、なにが起きた?」
ゾシムスは狼狽える。
村人は眠っている。
今のいままで、人の気配もなかった。
なのになぜ、火矢を構えている者たちが次々に撃ち倒されるのだ?
理解不能な事が起きている。
「ゾシムス様、ご指示を!!」
その声を聞き我にかえる。
「こ、攻撃せよ!!」
慌てて指示を出すが、すでに遅かった。
ドワーフの一団が大音声の雄叫びをあげて突入してきたのだ。
人数としては100人と多くはないが、その圧力は想像を絶する。
ましてや、直前まで奇襲が成功していると思い込んでいたのだ。圧倒され、崩されるのも早かった。
所詮は寄せ集めということだろう。ゾシムスの存在など忘れて、我先にと敗走を開始する。
「ま、待て!貴様ら、わしを守らんか!!」
ゾシムスの怒声も、味方であるはずの誰にも届かない。
届いたのは、
「ほう。自分を守れとは、賊徒どもの頭目か?」
エルフの戦士アンセルミの耳に、だった。
「ぞ、賊徒じゃと?このゾシムスを賊徒!!」
怒りに震えるゾシムス。
だが、続くアンセルミの言葉に耳を疑う。
「この神殿は我が国の庇護下にある。その神殿を襲ったのだ!これを賊徒と呼ばずになんと呼ぶか!」
この神殿が龍王国の庇護下にある?
ならば、アリフレートはじめ、この神殿にいる者たち全て、あの聖女も龍王国の庇護下にあるということか?
それに手を出すということは・・・・。
この国の王リュウヤを敵に回したということ。
それは確実な破滅を意味する。
「は、はははは・・・。」
その場に崩れ落ち、調子の外れた笑いをもらす。
「捕縛せよ!」
アンセルミの命令に、配下の者たちがゾシムスを縛り上げる。
「一番の手柄は、我々ですかな?」
部下の軽口に、アンセルミは返す。
「他の主君ならばそうだろうが、リュウヤ陛下はそう単純ではないぞ。」
「や、そうでしたな。あのお方の考えは私たちとは違っておりました。」
「上位であることは間違いあるまい。一番かどうかはわからないがな。」
アンセルミは部下にそう言って笑う。
彼は理解していた。彼らの主君が今回、誰を勲功第一とするのかを。
そして、それを是とする自分の意識の変化を。
「それよりも、ドワーフどもが追撃戦に移っているぞ。奴らに大功を立てさせるなよ!じゃないと、酒の席でいつまでもデカイ顔をさせることになるからな!」
アンセルミの檄に、部下のエルフたちは笑い声をあげる。
「それは、気持ちのいい未来ではありませんね。」
エルフたちは、ドワーフに負けじと追撃戦に参加した。
敗走する賊徒たちは、ゾシムスが捕縛されたことを知らない。
いや、彼らにとってはそれどころではない。
失敗した奇襲ほど間抜けなものはなく、それは部隊の壊滅的打撃を意味しているのだから。
少しでも早くこの場から去らないと、自分の命すら危ういのだ。
いや、奇襲を察知されていたとなると、すでに包囲されている可能性すらある。
その可能性に気づいた者は、武器を捨てて投降した。
ドワーフやエルフの追撃と、龍人族のカスミらが指揮する人間族の部隊500人との間で挟まれ、賊徒たちはその数を減らしていく。
そして、その数が100人余りまで減らされた時、ついに賊徒たちは降伏した。