ゾシムス
投稿200回!!
設定公開もあるから、実質190回くらいかな?
大地母神神殿神官長ゾシムスは苛立っていた。
約束の刻限になっても、別働隊の動きが見えないのだ。
森の中を進む別働隊が、この神殿と呼ぶのもおこがましい木造の粗末な建物に、火矢を打ち込む。それがそれが始まりの合図だったのに、いつまで経ってもその別働隊が現れる様子がない。
思えば自分はいつも苛立っていた。
自分の生まれた境遇に対して。
自分の才能を認めなかった者たちに対して。
本来なら、もっと高い地位にいるはずなのに、50過ぎの老境に差し掛かっているにもかかわらず、未だに神官長という望外に低い地位にあることに対して。
そして、自分が所属する派閥の力が弱いことに。
彼は産まれてから全てのことに苛立ちを覚えていたのだ。
そんな彼に転機が訪れたのは14年前。
辺境のルーシー公国の更に辺境。
辺鄙な村に聖女がお産まれになったとのことで、その教師役として派遣された神官のひとりとなったことである。期間は聖女が15歳になるまで。
15歳になれば、総本山に送られることになっていた。
その時に、教師役がただの平神官ではいけないと神官長となった。
聖女は良い教え子ではなかったが、それでもこの聖女と繋がりを持っておけば、自身の立身出世も夢ではなかったはずだ。
功を焦った愚か者が、聖女の家族を流行病にみせかけて毒殺したのだ。
15歳まであと3年。たった3年待てば、なんの瑕疵なく総本山に送ることができ、また聖女と信頼関係を築くことができたものを!
毒殺したのは第2派閥の者で、すぐにでも聖女を総本山に連れて行き、派閥内に取り込むことで主流派へとおどり出る腹づもりだったようだ。
"ようだ"というのも、事が露見するとその者はすぐに服毒自殺を図り、成功したからだ。だから、その行為が派閥の領袖からの指示だったのかは、今となってはわからない。
だが、その行為は聖女の地元にあった者たちに警戒心を呼び起こすのには、十分過ぎる出来事だった。
特に聖女がいた神殿の若い神官!
聖女が喪に服する期間について、共に論陣を張って3年の期間を勝ち取った。
そう、当初の予定通りに15歳まで総本山に行かなくても良いようにしたのだ。ただ、そのために総本山へ行って状況説明をすることになったが。
それなのに、その説明に行っている隙に、聖女が神託を受けたとか言って勝手に移住をするとは何事か!!
これは重大な裏切り行為でしかない。
ならば、自分が聖女を手にして何が悪い。
「それにしても、別働隊の奴らは何をしているのか?」
夜中であり村人たちは目を覚ましていない。
奇襲にはもってこいの状況であるのに、いったいなにをしているのか。
決行の時間から一時間近くが過ぎている。
「ええい!もう待ってはおれぬ。攻撃を開始せよ!」
ゾシムスはついに命令を下す。
こうして戦闘は開始された。