襲撃
それに最初に気づいたのは、見張りとして外にいたサスケである。
ピリン村で早めの投宿の際、襲撃を予測してサスケとサイゾーを外に配置したのだが、二匹の行動はリュウヤの予想を上回った。
サイゾーはロマリア村方面の街道に、自分の糸を使って鳴子を作り、サスケは森からの侵入に警戒して、森側にサイゾーと同様に鳴子を作成していたのだ。
そして、相手は森側から侵入をして来た。
これは、下手に街道を使って、目撃者が出ることを恐れたのだろう。
だが、リュウヤ側としてはむしろ好都合である。
わざわざ人目がつかない森側から来て、しかも夜襲。相手に反撃したところで文句が出ない状況だ。
今回、リュウヤが一番懸念したのは、昼まで待って堂々と聖女を引き渡すように要求してくることだ。
そうこられると、拒否するのはなかなかに難しい。
サイゾーがリュウヤの元に、敵襲を伝えにやって来る。
サイゾーが窓を叩く音で、ユーリャ以外は目覚める。
アルテアがユーリャを起こし、リュウヤは窓を開けてサイゾーを迎え入れ、サイゾーが指し示す方向を見る。
「来たようだな。」
そう呟くと、すぐに準備を整える。
「なにがあったの〜?」
寝ぼけ眼をこすり、ユーリャが目を覚ます。
「襲撃が来るぞ。」
リュウヤにそう言われても、まだ頭がはっきりしていないのか、訳がわからないという顔をしている。
そんなユーリャを無視して、アルテアがユーリャの荷物をまとめている。
アルテアがまとめ終わるのを待って、裏口から宿を出る。
途中、サスケを回収して街道を歩いて行く。
「陛下、街道を使って大丈夫なのでしょうか?」
マテオが心配そうに尋ねる。
「後ろから来ることはないさ。」
「それはなぜでしょうか?」
「森側から来た連中は、エストレイシアが用意した者たちに殺られているだろうからな。」
ここでマテオは思い出した。エストレイシアと話していた内容を。
ユーリャの保護をした以上、襲撃してくる可能性とアリフレートを救助する、そんな内容だった。
それならば、あのエストレイシアが手を打たないわけがないのだ。
街道まで兵を出さないのはなぜか?
それは、人目につかないようにするためだ。
夜間とはいえ、人目がないわけではない。人目についた者が、森から出入りしていることを知られれば、龍王国の関与を疑われる。
少なくとも、相手から先に手を出して来たということと、その証拠乃至は証人を確保してから。一番良いのは、襲撃の指示を出した者の確保だ。
エストレイシアのことだから、そのあたりの抜かりはないだろう。
「手応えのない連中だ。」
そう呟いたのは、リュウヤらを襲撃しようとした者たちを壊滅させた部隊を指揮するデックアールヴのスティール。
「これでよくも陛下を襲撃しようとしたものだ。」
知らぬとはいえ、相手の力量を測ることすらしなかったのかと、呆れている。
「ここでこの程度なら、残る二ヶ所もたいしたことはなさそうだな。」
そう吐き捨てるように言うと、生きている者たちの捕縛を命じた。
街道を行くリュウヤたちの目の前に、多数の傭兵らしき者たちが倒れている光景が見えてくる。
そして立っている者が数名。
そこに立っていたのは、アカギとイコマ、イブキ、シュウウ、シズクの龍人族5名。
「久しぶりに剣を抜けると思ったんだがなあ。」
リュウヤがぼやく。
「なに言ってるんですか。少し前にしっかり暴れてきたじゃないですか、陛下は。」
蟲使いのところに行った時のことを言っているのだと、リュウヤは理解する。
「そうですよ。私たちは訓練以外には、ここのところ剣を振るってないんです。」
「部下に武勲を立てる機会をくださいよ、たまには。」
口々にリュウヤを責めるような言葉が出てくる。
ここまで言われると、たしかにリュウヤとしても悪い気になってくる。しかも、彼らの言っていることは正論だけに、余計に堪える。
「わかった。お前たちに全て任せる。」
観念したように、リュウヤは命じる。
その命令に、5人は獲物に襲い掛かる肉食獣のような目をして、次なる獲物を求めてロマリア村方面へと走り出した。
5人が去った後、リュウヤはここに転がっている傭兵らしき者たちを見る。
「どうだ?」
「皆、気を失っているだけのようです。」
そうだろうなと思う。
ただでさえ武力に秀でた龍人族の中でも、特に優れた連中なのだ。1人でもここに転がっている傭兵らしき者たちを殲滅できる。それが5人いるのだ。
その圧倒的な差があれば、気絶させるだけで済むだろう。
「で、あいつらの後始末を俺がするわけ、か。」
サスケとサイゾーの手を借り、転がっている傭兵らしき者たちを縛り上げていったのだった。




