表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍帝記  作者: 久万聖
192/463

ピリン村村長と馬乳酒

エストレイシアとユーリャによる、不毛なやり取りが終わったのは、一時間後のことだった。


ただ、寝室の扉には厳重に鍵をかけることを決意したリュウヤである。


不毛なやり取りにより消耗したリュウヤだが、それでも視察は続行する。


この地に来た時の第一印象通り、牧畜がこの村の主要産業であり、食肉や乳製品製造、羊毛を使った繊維産業。飼育している動物の皮を使った皮革製品製造。

馬をはじめとする家畜の繁殖と販売。


「産業としては、自立してやっていけそうではあるな。」


問題は、家畜の飼料の入手か。

特に馬は、「鯨飲馬食」という言葉があるほどに大食らいであり、その分大量の飼料が必要になる。


麦の生産が盛んなアルナック村から麦藁を仕入れるとして、それだけで足りるだろうか?

そもそもアルナック村も羊の飼育をしており、ピリン村に回せるだけの余裕があるかどうか・・・。


「飼料用穀物として、大麦やライ麦の栽培も進める必要があるか。」


大麦の場合は、さらに加工してビール製造ということも考えられる。


どちらにせよ、作付面積の拡大はしなければならないだろう。

そのためには森を切り拓くか、国境まで開墾するか。


国境まで開墾するとなると、その国境を確定させる必要がある。現在確定しているのは、イストール王国とパドヴァのみ。


今のところ、国境の確定のきっかけはない。もっとも、そういったきっかけは紛争であることが多いのだが。


「ルドラたちに確認する必要があるな。」


そう呟く。

現在の作付面積と予想収穫量、食料消費量の予測も必要か。

考えなければならないことは多いが、あまり細かいのも部下に負担をかけることになる。それは、ときに何も知らない以上に。


「聖女様。」


「あ、村長。」


ユーリャに話しかけてきたのは、この村の村長らしい。


「聖女様、仕事は終わられたのですかな?」


停留所で会った女性から話を聞いたのだろう。確かあのときは、土塁工事で負傷者が出たことになってたっけ。


「うん、終わったよ。それで、神官長様には癒しが終わったら自由にしていいって言われてるの。」


打ち合わせをしたわけではないが、すぐにそれなりの言葉が出るということは、頭の回転が速いのだろう。


「それでは、そちらのお付きの方も一緒に昼食などはいかがですかな?たいした物はありませんが。」


「それでは、ご一緒させていただきます。」


リュウヤは、ユーリャのお付きを演じることにした。









村長の家で昼食を摂る。

出された料理は羊肉が中心である。


硬めの黒パンを齧りつつ、羊肉をつまむ。

そして村長と雑談に興じる。


「これもどうぞ。」


そう言って出されたのは、白い微発泡している液体だった。


「美味しそう。」


一番最初に口をつけたのはユーリャだ。

一口、口に含んでとても形容しがたい表情になる。


馬乳酒(アイラグ)か。」


文字通り、馬の乳を発酵させたもので、強い酸味があることで知られる。

また、ビタミンが豊富で栄養価が高く、モンゴルでは野菜の代わりになっているという。

ただ、飲み慣れない者が多量に摂取すると、下痢を起こすことがあるため注意が必要である。


ちなみに、日本の乳性飲料である「カルピス」は、この馬乳酒から着想を得て開発されたものだという。


「なるほど、これで野菜不足を補っていたわけか。」


この村の耕作面積の割には、麦類の比率がやたら高く、野菜関係の比率が極端に低かった。

それを、馬乳酒を飲むことで栄養の偏りを防いでいたようだ。

彼らに、その知識があったかは不明だが。


万能食品と言ってもいいような馬乳酒だが、大きな欠点もある。

それは臭いがキツイことと、酸味がとても強いことだ。


勢いよく口に含んだユーリャは、口直しに水を飲んでいるし、アルテアとマテオは立ち上る臭気に眉をひそめている。


リュウヤはグイっと一飲みすると、


「これは、好みが大きく別れるな。」


と感想を述べる。


「そうでしょうなあ。」


村長もわかっているようだ。

すると、そんな馬乳酒をあえて出したのは、こちらの反応を伺ったということか。

すると、なかなか茶目っ気のある人物のようではないか。

こういう人物と話をするのは、とても楽しいもの。

ついつい、長居をしてしまう。


結局、リュウヤらが村長宅を辞したのは、3時間ほど経ってからだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ