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龍帝記  作者: 久万聖
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ユーリャの驚き

「陛下!」


リュウヤを見つけたのは、堀の掘削のため石人形(ストーンゴーレム)を使役していたエルフたちである。


彼らはリュウヤの下に駆けつけると、膝をつき、


「この(たび)は、我らの視察でありましょうか?」


「まあ、そんなところだ。」


今回のお忍び視察、どうやら中堅幹部以下には届いていなかったようだ。

普段、下級官僚たちと度々交流を持っていたのが、ここでアダとなったらしい。


「なにをしている!!」


エルフたちが膝をついているのを見て、彼らの上司らしきエルフが叱責するために近づいてくるが、リュウヤの顔を見て慌てて膝をつく。


「陛下!!申し訳ございません。陛下がお越しとはつゆ知らず・・・。」


そこまで言って、ハッと思い出したのか、


「お前たち、エストレイシア閣下にお伝えせよ。」


膝をついている部下のエルフに命じる。


"そこまでしなくてもよい"と、そう言おうとした時にはすでに遅く、命じられたエルフはまさに飛ぶような勢いでエストレイシアを呼ぶべく走り去って行った。


「え?え?へーかって・・・?」


会話についていけないユーリャは、キョトンとした顔をしていた。


「まあ、そういうことだ。」


そう答えるリュウヤの言葉も、ユーリャには届いていないようであった。









「うわーっ、綺麗な人。」


エストレイシアを見たユーリャの第一声である。


一向は今、エストレイシアが工事を視察するために(しつら)えた天幕(テント)の中にいる。


「申し訳ありません、陛下。此度の視察のことを、周知徹底できておりませんでした。」


「今回は、特に大きな問題ではないが、今後を考えると大きな課題だな。」


今回は平時であるため、大した問題ではないが、これが戦場だったらどうなるか?

指揮・命令系統が滞りなく機能していなければ、一度(ひとたび)混乱に陥ってしまうと、そのまま総崩れになる恐れさえある。それは、軍という組織にとっては致命的なものなのだ。


指揮・命令系統の重要性というものは、2千年以上も昔から指摘されており、その最たるものは「孫子」こと孫武の逸話だろう。

春秋戦国時代、呉王の闔閭(こうりょ)に招かれた孫武は、闔閭の後宮の美姫180名の指揮を執るように命じられる。

孫武はこれを二隊に分け、それぞれの隊長を闔閭の特にお気に入りの二人に任じて命令を下すが、女性たちはその度に笑って動こうとしない。

孫武は、「命令が不明確で徹底せざるは、将の罪なり」と言い、自らに鞭を打たせ、改めて女性たちに命令をする。

だが、女性たちは相変わらず笑って動こうとしなかった。

すると今度は「命令が既に明確なのに実行されないのは、指揮官の罪なり」と言い、二人の寵姫を斬首に処した。闔閭は慌てて止めようとしたものの、孫武は「一たび将軍として任命を受けた以上、陣中にあっては君命でも従いかねる事がございます」と闔閭の寵姫を二人とも斬ってしまった。


その後、別の女性を隊長に任じて命令をすると、今度は遺漏なくキビキビとした行動をしたという。


ただ、「一たび将軍として任命を受けた以上、陣中にあっては君命でも従いかねる事がございます(帷幕にあっては王命といえど従い難し)。」という言葉を、満州に展開していた関東軍は拡大解釈、というよりも曲解して自らの暴走を正当化しようとしてもいる。


「一たび将軍として任命を受けた以上、陣中にあっては君命でも従いかねる事がございます」という言葉は、「ひとたび命令を受けたら」であって、「命令もないのに行動する」独断専行を認める言葉ではない。


かのように、組織の指揮・命令系統の確立というのは、現代でも大きな課題でもあるのだ。


「手は足りているのか?」


リュウヤはエストレイシアに問う。

エストレイシアは優秀な人材である。だからといって、全てを背負わせるわけにはいかないだろう。

軍政と軍令を分ける、近代軍制を取り入れる方がよいのではないだろうかと、そう考える。

具体的に言うならば、軍務大臣相当の役職と、統合作戦本部のような体制にする。


「足りているとは言えないのが、現状です。」


特に、下級指揮官の不足が顕著なのだという。

これも、急速に拡大している新興国ならではの悩みかもしれない。


「下級指揮官の不足は、兵の質の低下に直結するからな。」


直接兵を訓練するのは下級指揮官になるのだ。

ちなみに、日本の自衛隊は下士官の比率が高いことで知られているが、それはいざという時に、多数の兵を訓練するのが目的であると言われている。

さらに言えば、龍王国(シヴァ)は多種族国家でもある。そのため、種族間での好悪の感情というものもあり、「なんで俺があの種族の下につかねばならんのだ」といった反感もあるのだ。

現時点では、武功というわかりやすい物差しがあるから、幾分かマシではあるが。


「予想以上に、頭の痛い問題だな。」


「はい。」


そうなると、しばらくは傭兵に頼るしかなさそうだ。

シニシャのような者ならばよいが、ただの無法者では困る。そして、現実には無法者の方が多い。


二人は顔を見合わせると、ため息を吐く。


そこへ、


「あの、へーかって、もしかして国王陛下のこと・・・、ですか?」


ユーリャが、彼女らしくない控えめな物言いで尋ねてくる。


「この国の王、リュウヤ陛下だ。」


なぜか一緒にいるエルフが胸を張って答える。


ユーリャは口を大きく開いたまま固まっていた。

なかなか体調回復せず、更新時間がバラバラになってしまっています。


まことに申し訳ありません

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