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龍帝記  作者: 久万聖
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アリフレートとユーリャ

風邪で喉がやられています

大地母神神殿の神官長アリフレート。


「わざわざ正装する必要などないだろうに。」


なにせリュウヤはお忍びなのだ。正装で来られるのは、かえって困る。


「いえ、お忍びといえど、陛下の前に出るのですから。」


たしかに相手が誰か知ったなら、そうするのも当然なのかもしれない。


「それで、お前たちの狙いはなんだ?」


単刀直入に言うリュウヤ。

それに、これまたストレートに返答するアリフレート。


「それは、聖女ユーリャをお預けしたいのです。」


「はあ?!」


思わず、素っ頓狂な声をあげるリュウヤだが、それも当然だろう。


そもそも彼らの信仰する大地母神は、母神というだけあって女神である。そしてその聖女となれば、神殿としては最上位かそれに準ずる地位にあるはずの存在。

それを預けるとはいかなる了見なのだろうか?


「あはは。やはり驚かれますか。」


いや、驚かないほうがおかしい。


「まあ、預けたい理由というのはですね。陛下の(もと)に置いていただくのが、一番安全だからなんですよ。」


「状況を説明しろ。」


結論を出さずに、状況から説明してもらわないと、こちらとしても判断に困る。


「えーっとですね?我が大地母神神殿にも色々あるということなんですよ。」


この発言で、ある程度は理解した。

大地母神神殿内での派閥・勢力争いがあり、ユーリャをそこから遠ざけたいということなのだろう。が、もっと詳しく話してもらわないと、他の者たちが理解できないし、説明ができない。


「詳しく話せ。」


「うーん・・・・・・・・・・・・・・・」


なるほど。このアリフレートというのは、余程の説明下手なのだ。口は回らないのに頭が他人より切れる、そういうタイプ。

おそらくは、今でも頭の中は高速で働いているのに、口がその働きに追いつかない。

そのため、結論のみを言ってしまい、周りとの会話にズレができる。

言いかえれば、数学のテストで計算式を書かずに答えだけを書いて減点されるタイプだ。


こういう人間への対処法は、焦らずに相手が話し始めるのを待つか、話しやすくなるように、こちらから要点に水を向けるか。


「では、ユーリャのことを聞こう。聖女であるというのは、あの印があるからだな?」


リュウヤは水を向けることにした。


「は、はい。聖女ユーリャは、産まれながらにして聖印(みしるし)を持っておりました。」


ここより遥かに北、他国からは辺境の貧しい国と蔑まされるルーシー公国という国の、さらに辺境とされる地域でユーリャは農家の娘として産まれた。

その産まれた場所というのが、その地にあった大地母神神殿である。

大地母神というのは豊穣の女神であり、それは妊婦の守護者としての側面を持つ。そのため、大地母神神殿には多数の助産婦がいるのだ。


大地母神=出産に関連する女神という考え方は、地球にもある。

褒められた物言いではないが、女性を畑に例える言葉などは、そういう考え方から生まれたものだ。


ユーリャの産まれた地域では、大地母神神殿での出産は極々普通のものであり、自分の家で出産するなどというのは、上位の貴族か余程の大商人くらいのものだった。


だからユーリャの誕生は、大地母神神殿のありふれた日常の一コマであるはずだった。左胸に大地母神神殿の聖印と同じ形の(あざ)がなければ。


「その印を持って産まれ、どうなった?」


数瞬の沈黙のあと、


「乳離れと同時に、両親から離されて神殿に引き取られました。」


それから、ずっとその神殿にいたのだという。


ん?ずっと神殿にいた?


「聖女が現れたとなれば、総本山に報告をしたのではないのか?」


報告をしていたならば、ほぼ間違いなく総本山に送っていたはず。というより、総本山側から迎えが寄越されていたはずだ。

教育という意味でも、権威という意味でも。


「報告はしました。そして、総本山から迎えも来たのですが、正神官になったばかりの若いのが、強硬に反対したのですよ。」


ただでさえ乳飲み子を引き離しているのに、両親から遥かに遠いところに送るべきではない。それは、大地母神神殿のとなえる、自然な親子関係を否定することではないか。


そう主張して、総本山に送らせなかったのだという。


ただ、教育係の神官が何人か派遣されることにはなったが。


そして、ユーリャが12歳になった年に、両親をはじめとする家族が流行病(はやりやまい)により相次いで亡くなった。


「助けられなかったのか?」


「・・・助けるべく神官を派遣したが、間に合わなかった。それが神殿の公式な見解です。」


本当に間に合わなかった?

逆ではないのか?

ユーリャがその地に張っていた根、家族を失わせることにより、総本山に連れて行きやすくする。そのためにあえて遅らせた。

いや、そもそも流行病で亡くなったのではなく・・・。


「おそらくは、陛下が考えている通りかと。」


大きくため息を吐く。


「慈悲深き大地母神に仕える者たちにも、色々とあるのだな。」


「ええ、まあ・・・。」


なんのかの言っても、所詮は人の集まり。

派閥争いもあれば、嫉妬などの負の情もあるだろう。


「それでも、すぐには連れて行けなかった理由は?」


「先ほどの神官が、"喪に服す時間もないのか"と、強硬に主張して阻止したそうです。」


その神官は、喪に服す期間を5年と主張していたそうだが、結局は3年となった。

この神官は、あえて条件をふっかけていたのだろう。

すぐにでも連れて行きたい総本山側としては、この神官の存在は腹立たしいものだったのは、容易に想像できる。

それでも、その主張をある程度受け入れたのは、後ろ暗いことがあったからであろう。


そして、家族を失ってから約一年。

ユーリャは天啓を得る。


それが、この地への移住の始まりだった。


住んでいた地域が春になる頃、行動を開始。

当然、総本山から送り込まれていた神官たちは大反対したのだが、この時、神官長に昇格していたユーリャの擁護者が、


「神意を無視するのか。」


と、強行した。


時期を確認すると、どうやらリュウヤがこの地に来た頃らしい。


ユーリャら移住団がこの地に辿り着いたころ、豊かな森が広がっており、始源の龍の言葉、いわゆるリュウヤのパドヴァ宣言が届いたという。


「いち早く、この国への帰属を決めたのは、ユーリャ様を守りたいからです。あの娘は、神殿の都合によって家族を失いました。これ以上、失わせたくないのです。私には力はありません。ですから、私の気持ちを理解していただける方に、彼女を託したいのです。」


大地母神神殿と戦え、そういうことか。

ユーリャがいるのなら、戦いようはあるが・・・。


「わかった。受け入れよう。」


リュウヤは、そう決断した。

皆さまも、体調管理はしっかりとしたください

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