大地母神に仕える子供たち
神官見習いだという少年に案内され、別棟に移動する。
アリフレートは、礼拝者への対応を他の者たちに任せるべく、指示を出した後に来るという。
「君の名は?」
別棟への道すがら、リュウヤは神官見習いの少年に名を尋ねる。
「僕はフロルと言います。旅のお方。」
この少年は、アリフレートとは違って自分のことを知らないと確信する。
「君は、この国の王様を見たことがあるのか?」
話しかけないと沈黙してしまうフロルに、リュウヤが話しかける。
「はい。イストール王国の使節が来られた時、王様が出迎えられたのを遠くから見ていました。」
どうやら、その時に一緒にアリフレートもいたのだろう。
どうやら、あの神官は相当に目がいいらしい。それだけでなく、記憶力も相当なものだ。
よほど訓練されたのか、元々の素質か。
「こちらでお待ち下さい。」
フロルに案内された部屋は、簡素な作りで広いだけのものだった。
調度品もほとんど置かれておらず、大きなテーブルの上に置かれている花瓶に、花が一輪いけられているだけだ。
そして木造であるだけに、その木の香りがリュウヤには心地良い。
「失礼します。」
そう言って入ってきたのは、アルテアよりも年少の少女だった。
この少女も、おそらくは神官見習いなのだろう。
ぎこちない動作で、木で作られたコップと水差しを置く。
無事に置くことができてホッとした表情を見せる。
そしてコップひとつひとつに、再び緊張した面持ちでその水を注いでいく。
零さずに注ぎ終わると、緊張から解放されたなのかホッとした面持ちになる。
「ありがとう。えーっと・・・」
「キ、キラと申します、陛下。」
粗相がないようにと、この少女に正体を伝えたのかもしれない、そう思ったが同時に、あきらかに逆効果だろうと、そう思う。
注がれた水に口をつけると、酸味と爽やかな柑橘系の香りが鼻をぬける、
「これは、柚子か?」
「はい!」
キラが嬉しそうに返事をする。
なんでも、彼女が摘んできたものなのだそうだ。
その労をねぎらうように頭を撫でると、いっそう嬉しそうな顔を見せる。
これで砂糖があれば、柚子のジャムやゆべしが作れるかもしれない。
野生種の柚子が、この辺りに自生しているのなら、他にもなにかあるかもしれない。
森の植生調査も必要になりそうだ。
そこへアリフレートがやってくる。
「おまたせいたしました。リュウヤ陛下。」
そこにいるアリフレートは、神官としての正装をしている。
その正装にアルテアとマテオは驚く。
「神官長様?」
「はい。大地母神神殿で、神官長を拝命しております。」
リュウヤは、より詳しい話を聞く必要がある、そう判断していた。