大地母神の聖女
扉を開けて入って来た少女。
金髪碧眼の、控えめに言って美少女。このまま成長したなら、「傾城の美姫」と呼ばれるに違いない美貌の持ち主。
なぜかこの美少女に既視感を覚える。いや、既視感というのは正確ではないかもしれない。
会ったことは無い。
こちらの世界はもちろん、向こうの世界でも。
なのに、なぜかすでに出会ったことがあると確信させる。
「アリフレート、お客様が来ていらっしゃるのですか?」
「ユーリャ様。ノックをしてすぐに開けてはいけないと、何度も言っているでしょう。」
「はーい。それでそちらの方は?」
屈託なく笑顔を向ける少女。
ユーリャという名前からするとロシア系、と考えて思わず苦笑する。
こちらの世界に、向こうの世界のことを当てはめてどうするのか。
「俺はルシウス。そして、こちらがコクヨウ。」
リュウヤが名乗る。
「ふーん。」
そう言いながら、ユーリャという少女はリュウヤの顔を覗き込むと、悪戯っぽい笑顔を浮かべる。
「私はユーリャ。なぜだか知らないけど、"聖女"って呼ばれてるの。」
そう言って服の前をはだけ、胸元を見せてくる。
「!?」
「ユーリャ様!」
慌ててアリフレートがユーリャを止める。
「見えたでしょ?私のおっぱ・・・」
「ユーリャ様!!はしたないことをしない!言わない!!」
ユーリャはアリフレートに舌を出し、リュウヤの後ろに隠れる。
「ああ、見えたよ。胸の印がね。」
ちらっとしか見えなかったが、この神殿に掲げられていた紋章に似ていたような気がする。
「その先は見えなかったの?」
むすっとした表情で抗議する。そんな表情も、美少女だと様になる。
「ん?見えたぞ。洗濯板なら。」
「むーっ!」
それならばとばかりに、その長い腕をリュウヤの首に回してくる。
「誘惑するには、色気が足りないな。」
リュウヤの宣告に、ユーリャは不満顔である。
「おかしいなあ?気に入った男の人は、こうやれば落とせるってレーラが言ってたのに。」
どうやら、誰かこの天真爛漫な聖女に教授した者がいるらしい。
同じ教授するなら、もっとマシなことを教えればいいと思うのだが。
さらにユーリャがリュウヤになにかしようとしたとき、
「お待たせいたしました。」
アルテアとマテオが扉を開けて入ってくる。
「存分に礼拝はできたのか?」
「はい、しっかりと行えました。」
その返事を聞くとリュウヤとシズカは立ち上がる。
「世話になった。」
そう言って部屋を出ようとすると、
「ちょっと待って!」
ユーリャが4人を呼び止める。
「いつまでこの村にいるの?」
「今日はこの村で一泊する。明日は、隣のピリン村に行く予定だ。」
「じゃあ、今夜はここで泊まっていけばいいじゃない。それと・・・。」
ゆっくり4人を見渡すと、
「今日は私が案内してあげる!」
そう宣告する。
宣告を受けたリュウヤは皆を見る。シズカは諦めたかのように小さく頭をふる。
どうやらリュウヤと同じ結論に達しているようだ。
この聖女サマは、NOと言っても絶対についてくる。
リュウヤは諦めて宣告をうけいれることにした。