ニシュ村 情報交換
トール族がいるということは、サギリがいるということ。
そして、問題なのはトール族がいるところに、ともにいる可能性が高いもうひとりの存在なのだが・・・。
なるべく彼らから死角になるように移動することにする。が、すぐにサギリに発見される。
サギリもリュウヤがお忍びで視察をしていることは知っているため、声には出さない。
"陛下、今日はこの村の視察でしょうか?"
"そうだ。後ほど、話を聞きたいが良いか?"
"わかりました。では、昼に森側の村の外れにある広場でお待ちしております"
念話にて簡単なやり取りを行い、双方はその場を離れる。
「失念していたな。新しく編入された村なら、防壁・防塁の工事をしている可能性があったんだよな。」
「それだけではありません。農業指導にエルフが、防壁・防塁の工事にはデックアールヴが関わっていますから、出会う可能性があります。」
周囲に人がいないことを確認して、シズカが指摘する。
「デックアールヴか。都合がいいな。」
シニシャのことを調べさせよう。できれば、その目的も。
昼。
サギリの待つ広場にリュウヤたちは足を運ぶ。
そこにはサギリをはじめ、トール族にデックアールヴ、エルフたちも来ていた。
「いくらなんでも目立ち過ぎではないか?」
リュウヤがそう口にするのも無理はない。
この国は多種族共存国家ではあるが、基本的には森の中の者たちが外に出ることはない。
これは、急激に同化政策を推し進めると、その反発も強力なものになってしまうからだ。
あちらの世界、2011年に端を発するシリア内戦。その内戦により生み出された難民問題と、その難民を受けいれた国々の状況を知ると、その混乱と同化の難しさを理解できる。
2015年から始まる難民の大移動は、周辺国を混乱に陥れ、治安にも大きな影響を与えている。
難民にテロリストが混ざっていた(注1)こともそうだが、一般人による犯罪、特に女性への性犯罪が多発したこと(注2)も問題であり、しかもドイツではその事実をマスコミは当初、一切報道せず、警察もそのことを公表しなかった。ドイツ国民がその事実を知ったのは外国メディアが報道したからである。
ドイツメディアは、外国メディアの報道の後追い報道となってしまい、また警察が公表しなかったことから両者への批判が殺到。難民の受け入れに積極的だったメルケル政権の支持率の急降下を招いている。その結果、メルケル政権は難民受け入れのセーブせざるを得なくなった。
もっとも、リュウヤからしてみれば自業自得としか言いようのない、メルケル政権の失策だが。
一気に100万人を超える難民を受けいれて、何も起こらないと考える方がどうかしているし、一国をあずかる身であるならば、まずは自国民を守ることを最優先に考えるべきなのだ。
理想を追求するのが悪いとは言わないが、現実とのバランスをとらなければならない。
サギリはトール族を村側に配置することで、リュウヤたちが見えないようにしている。
それだけでなく、エルフたちも幻術を展開することで、リュウヤたちの存在を隠している。
「よくやってくれているな。」
まず、リュウヤはトール族に労いの言葉をかける。
労いの言葉に顔をほころばせ、喜ぶトール族。
「お前たちの同族も増えると良いのだがな。」
この一年、トール族の人数は10人と変わらない。今後のことを考えるならば、トール族にはもっと来てもらいたいものである。
「この村の様子はどうだ?」
ラスタ、アルナック両村と比較して、あまりにも武装した者が多い。
人口比としてふたつの村が多く見ても2割に達しない程度なのに、このニシュ村は4割はいる。最近までオスト王国といざこざを抱えていたとはいえ、多過ぎはしないだろうか。
「オスト王国とのいざこざを知ってやって来た傭兵が、大勢いますから。」
サギリの言葉だが、それを補足するように、
「ここで名を挙げて、我が国への仕官を考えている者もいるようです。」
と、デックアールヴのアイロラの言葉。
その言葉に、最初にからんできた連中を思い出す。ああいうのは遠慮しておきたいものだ。間違いなく、軍規違反をやらかす。それが、本人たちの処分だけで済めばよいが、そうならない可能性もある。
一時間ほどの短い時間で、解散となる。
いつもと同じようにしておかないと、不審に思われる可能性もあるのだ。
アイロラたちデックアールヴに、シニシャのことを調べさせると同時に、トール族たちへの口止めも行い、もう少し村内を見回ることにした。
注1: 一部サイトでは、テロリストが発信していたSNSから、難民に入り込んでいたテロリストを特定している。
注2: ケルン大晦日集団性暴行事件で調べましょう。