ニシュ村 防衛隊隊長シニシャ
声をかけてきた恰幅のよい女性、名をイヴァナというそうだ。
「奇遇だねえ。向こうじゃいい雇い主はいなかったのかい?」
リュウヤの肩をバシバシ叩きながら聞いてくる。
「アルナック村にいるドヴェルグに、武具を注文してきたんだよ。」
「ここにも鍛治師はいるが、ドヴェルグが相手なら仕方ないね。」
同じ人間相手なら商売敵にもなるだろうが、鍛治師としても名高いドヴェルグ相手となると、そうはいかないのだろう。
「立ち話もなんだし、ウチに来な。隊長さんもどうだい?」
「イヴァナにそう言われちゃ、従うしかないなあ。」
シニシャはその見た目のままの豪快な笑いをみせて、"お前らはどうする?"と、リュウヤ達を見る。
リュウヤは他の3人を見てから、
「お言葉に甘えさせてもらうよ。」
提案を受けいれた。
イヴァナの家にはその夫ミロシュもいた。
職人のイメージ通り、無口な頑固者といった風貌だ。
「イヴァナの夫、ミロシュだ。」
そう挨拶しただけで、そのまま奥にある工房に引っ込む。
「すまないね。ウチの旦那、愛想って物をどっかに落っことして産まれたみたいなんだよ。」
イヴァナがそう言って笑う。
「腕がいい人間の職人ってのは、あんなものだろう。」
「そう言ってくれると助かるよ。」
一時間ほど茶飲み話をした後、リュウヤらはイヴァナの家を出る。
残されたイヴァナがシニシャに話しかける。
「どうだい、あいつらは。」
そこには愛想よく応対した姿はない。
「マテオとかいうのと、ちっこい女の子はたいしたことはない。だが・・・」
いったん区切り、言葉を続ける。
「残るふたりはとんでもない化け物だ。特にルシウスというヤツはな。」
あれだけは敵にしてはいけない、そう思う。
「だけど、あんたがそこまで言うなんてねえ。」
「そういうなよ。俺は、あの男が龍王国の王様だったとしても、驚かねえよ。」
話に聞くリュウヤ王は、その力の底が見えないというが、あのルシウスも同様に底が見えない。
「だったら、味方に引き込む算段でもするんだね。」
「少なくとも、敵にならないようにするさ。」
そう言うと、シニシャもまたこの家を後にした。
「気のいい人たちでしたね。」
アルテアの言葉だ。
「そうだな。」
リュウヤはそう口にはするが、そうとは言い切れない印象を持っていた。
なかなかの手練れのようだが、そんな人材がなぜここにいるのか。
一番最初に思い浮かぶのは間諜だが、それならば移住者の生活に紛れたほうがいいはず。あえて防衛隊隊長などという職につく必要などない。
そんなことを考えていると、見知った存在を発見する。
それはトール族の面々だった。