表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍帝記  作者: 久万聖
176/463

アルナック村の夜

地域大国たるイストールとの交易路となっているだけに、アルナック村は栄えている。

物資はもちろん経済的にも、開拓地の村の中で最も豊かである。


それだけに、ここを軍事拠点にするのは難しい。

かつて豊臣秀吉が、博多を"唐入り"への拠点にしようとしていたが、その繁栄ぶりから肥前名護屋に拠点を移した事例がある。


アルナック村もその例に倣うことになりそうだ。


それだけ栄えている村だけに、この村の宿はいくつかある。

リュウヤたちが投宿したのは、リサーチした中で最も評判の良い宿だった。

評判の良い宿=宿泊費が高い宿でもある。

リュウヤ自身は安宿でもよかったのだが、


「安宿に泊まっているようでは、傭兵として足元を見られるのでは?」


というマテオの意見が採用され、今回の宿となった。


宿を確保して、夕刻まで村内を見て回った。








夕刻、宿に戻り一番隅の席に座る。


料理はやはりというべきか、畜羊が盛んなイストールとの交易があるだけに、羊肉づくしだった。

羊肉の香草焼きだったり、ラムチョップ(骨つき羊肉)だったり。アイリッシュシチューに似たシチューもある。

そしてキッシュ。

キッシュとは、地球ではフランスのアルザス=ロレーヌ地方の郷土料理の一つである。パイ生地、もしくはタルト生地で器を作り、卵と生クリームを使った食べ物である。具材としては、挽肉や野菜を入れるのだが、リュウヤはキッシュを見て一瞬固まる。


「どうかなさいましたか?」


アルテアの言葉に、


「キッシュにいい思い出が無くてな。」


バイクでのツーリング途中で立ち寄ったある店で、初めて見たキッシュを食べたのだが、途轍もなく甘くて、ひとつ食べたら胸焼けに襲われた記憶が(よみがえ)る。


さすがにこの世界で甘いキッシュが出てくるとは思わないが、それでも身構えてしまう。


「あちらの世界と同じものとも限らんのだがな。」


そう言うと、一口食べる。


やはり、かつて食べたものとは全く違うものだった。


「これは、なかなか旨いものだな。」


そう言って食べ進める。


それを見て、皆も食べ進めはじめた。









食後、大きな宿だけあって風呂もある。

入浴してさっぱりすると、リュウヤは宿の中庭に出ている。

設置されているベンチに座り、空を見上げる。


「陛下。」


シズカたちがリュウヤの元に来ていた。


「その呼び方は・・・」


止めろ、そう言い終わる前に、


「結界を張っていますから、私たちの話声は周囲には聞こえません。」


シズカに言われる。


「なにしてたんだい、王様(おーさま)。」


ナスチャのぞんざいな口調に、眉をひそめるアルテア。


「俺がいるとマテオが眠れないようなんでな。アイツが寝るまで星を見てようと思ってな。」


「それって、逆なんじゃないのかい?」


主人が部下を気遣って外に出ているなんて、本末転倒もいいところだ。


「本来なら、そうなんだろうな。」


そう答えてから、3人にベンチに座るように促す。

シズカ、アルテアは遠慮しようとしていたのだが、空気を読まないナスチャがどかっと座ったため、2人も座る。


王様(おーさま)も変なヤツだよな。王様ってのはもっと踏ん反り返ってるものだと思ってたよ。」


その意見には、アルテアも同意する。


「それに、美人を周りに(はべ)らせて遊んでるのかと思ったら、全然、手をつけてないってんだもんなあ。あたしの中の王様のイメージが壊れっぱなしだよ、王様(おーさま)のせいで。」


「それは悪かったな。」


苦笑しながらリュウヤが答える。


「サクヤ様は婚約者だから置いとくとして、フェミリンスにエストレイシアにミーティア、アルテアだっている。なんで手を出さないのか、理解できないね。」


「そこにナスチャもいるのにな。」


リュウヤの思わぬ反撃に、ナスチャの顔が真っ赤になる。


「か、からかってんじゃないよ!」


ナスチャの慌てぶりに、皆が笑う。


「俺は、自分にそれだけの甲斐性があると思っていないからな。」


本音だが、それが理解されるとは限らない。


王様(おーさま)に甲斐性がなかったら、世の男どものほとんどが甲斐性無しになりそうだけどね。」


リュウヤは幾度目かの苦笑をする。


リュウヤが何かを言おうとした時、


「クシュン。」


と、アルテアがくしゃみをする。


「湯冷めしてはいけないからな。もう、戻るとしよう。」


その言葉で、皆は部屋へと戻ることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ