接触
出てきたのは若いドヴェルグだった。
リュウヤは視線をわずかにシズカに向ける。
シズカは視線だけで違うと合図を送る。
「貴方がここの主か?」
「いや、主は中にいる。何か用か?」
「剣を打ってもらいにきた。」
「剣を?」
「いいミスリル鉱石を手に入れてね。本当は、ギイ師に頼みたいのだが、森の中に入る許可がなくてな。」
そう言いながら、ミスリル鉱石を袋から出して見せる。
「ここにドヴェルグが居るって聞いて、剣を打ってもらえるんじゃないかって思って来たんだ。」
「ふむ、立派なミスリル鉱石だな。」
「それとこれも、な。」
シヴァの鱗を見せる。
「ほう!龍の鱗か!!」
若いドヴェルグは、腕組みをしてしばらく考えていたが、
「わかった。リーダーに聞いてくる。」
そう言って中に戻って行った。
若いドヴェルグが、さほどの時間をおかずに戻ってくる。
「依頼を受けるそうだ。入ってくれ。」
リュウヤとシズカ、アルテアとナスチャの4人が中に入っていく。
中にはふたりのドヴェルグおり、ミスリル鉱石と龍の鱗をじっと見ている。
シズカに視線を送ると、少し首を傾げている。
"ひとりは間違いなくギドゥンです。ですが、もうひとりがダグなのかは確証が持てません"
そう念話を送ってくる。
ギドゥンで間違いないというドヴェルグは、年相応の顔立ちとそれなりの風格もある。
だが、もうひとりの方は・・・。
ギイの息子というには、その顔に刻まれた皺の深さと数が多すぎる。
ギイと同年代か、それより上だと言われても信じてしまいそうだ。
"ギイの面影はあるが、これでは確証は持てないな"
シズカに同意するしかない。
「見事なミスリル鉱石と、なによりも龍の鱗だ。どこで手に入れたんだ?」
「ふたつともパドヴァで手に入れた。ミスリル鉱石は、この国から産出したものらしいがな。」
「それで、龍の鱗は?」
「1年ほど前、始源の龍がパドヴァに現れたのを知ってるか?」
「聞いたことはあるな。」
「その時に落としていったものらしい。」
これはもちろん嘘である。実際にはドゥーマに頼み、岩山の王宮付近で採取したものである。
ドヴェルグたちはリュウヤの説明に、一応は納得したらしい。
「剣を打てばいいんだな?」
「そうだ。そのミスリル鉱石で、何振り打てる?」
「そうだな・・・」
ギドゥンは少し考え、
「長剣なら二振りってところだな。」
そう答える。
「そこの娘ふたりに合うサイズだとどうだ?」
アルテアとナスチャのふたりを見つつ、リュウヤが質問する。
「そこの娘ふたりに合うものとなると、小剣だな。」
小柄なふたりに合うサイズだと、小剣二振りだという。
「あとは、残った分で長剣が一振りできるくらいか。」
「ならば、ミスリル鉱石はそれで頼む。龍の鱗は、この娘の防具にしてほしい。」
アルテアの頭に手を置きながら、そう話す。
「枚数からすると、胸当てが良さそうだな。急所を守るように龍の鱗を使って、後は他の材料を使うか・・・。」
「それで頼む。期間はどれくらい必要だ?」
「5日、だな。」
「では、5日後の夕刻に取りにくる。」
「わかった。それで、アンタの名は?」
「俺はルシウス。この娘がアルタ。仮面の女性がコクヨウだ。」
「私はナスチャだ。」
ナスチャだけ実名だったりする。
「あと、マテオというのが外の木陰で寝ている。」
「そうか。俺はギドゥン。そして、兄のダグだ。」
ギドゥンは隣にいる、深い皺の刻まれた顔のドヴェルグを紹介する。
"やはりこの男がダグだったか"、そう思っていると、
「そちらの仮面のお嬢さんは、なぜ仮面を外さないのかね?」
この問いに対する答えも用意してある。
「彼女は子供の頃に火事にあってね。その時に顔を火傷したんだ。その時に熱風を吸って喉もやられたそうだ。」
そして、
「火傷した女の顔を見たいのかな?」
「いや、それはすまなかった。」
素直に謝罪するダグ。
ここでリュウヤは気づく。ダグの右腕が無いことに。
その視線に気づいたダグは、
「昔の、過ちを犯した報いだよ。」
どこか遠い目をして言う。
「何か、深い事情がありそうだな。」
「他人に話すようなことじゃ無いさ。」
そう言って、話を打ち切る。
「頼まれた物は、5日後までに作っておく。」
この日の接触はここまでだった。
早速開始するとのことで、リュウヤらは工房から追い出された。