シズカ
執務室でフェミリンスに謝罪する。
そして、今回の件について話しておく。
秘密を知る者は少ない方がよいのだが、今後リュウヤが単独行動を行うにあたり、留守役などの協力を求めることになるため、説明せざるを得ないと判断したのだ。
「それは大変なことになりましたね。」
「まったくだ。対応をまちがえたら、とんでもないことになりそうだ。」
側で聞いているミーティアも嘆息している。
状況を教えられれば教えられるほど、解決の糸口があるように見えない。
どうやってまとめるのか。
「どうなさるおつもりですか?」
フェミリンスのどこかからかうような、面白がっているような声。
「縺れた感情の糸は、本人たちにしか解けない。」
「ぶつけ合うのですか?」
それに直接は答えない。
「タイミング次第、だとは思うんだが、関係者が多すぎるんだよなあ。」
そう呟くと、長い思考に入っていく。
リュウヤのそんな様子に、思考の邪魔をしないよう静かにふたりは退室した。
リュウヤが執務室を退室したのは、夜更けになってからだった。
考えはまとまらないが、腹は減る。
一応、食事をする広間に寄るが、当然ながら残っているわけがない。
厨房に行くと、置いてあるパンに適当に干し肉と野菜をのせて挟む。簡単なサンドイッチを3つ作ると、飲み物を適当に用意して椅子に座り、食べ始める。
全てを食べ終えると、再び思考にふける。
「陛下。」
どれだけの時が過ぎたのかわからない。
いきなり声をかけられる。
「シズカ、か。」
本来なら、今は顔を合わせたくない相手なのだが。
「どうかしたのか?」
この状況で、こんな言葉ほどおかしいものはないだろう。
どうみても、リュウヤがこの時間にいるからこそ声をかけてきたのだろうから。
「喉が渇いたので水を飲みに来たのですが、陛下がいらっしゃったので。」
ああ、なるほど。っていうよりも、少し頭を働かせればわかることだ。なのに、それができないというのは相当に疲れているか、頭の中がごちゃごちゃになっているか、そのどちらかかまたは両方だろう。
暫しの沈黙。
「ダグとギドゥンが、開拓地にいるそうですね。」
「!!」
いきなりの言葉に、シズカの顔を見る。
"なぜそれを?"
そう言おうとすると、それを遮るように
「トモエとエストレイシアが話しているのを聞きました。」
他人に聞かれるって、どこで話をしていたんだ、あのふたり。素朴な疑問が生じる。
「サクヤ様の使いで行った先の、人目のつかぬところで話しておりました。」
リュウヤの疑問に答えるように、シズカが言う。
「私のことを、気遣っていただいているのでしょうか?」
「随分と、直接的な物言いをしてくれる。違うと言えないではないか。」
その言葉にシズカはクスッと笑う。
リュウヤが初めて見た表情だ。
リュウヤはひと息つくと、
「俺が知ったことを全て話す。だからシズカ、お前も本音で話してくれないか?」
そうシズカに語りかける。
そのリュウヤの目をじっと見つめた後、
「わかりました。」
返事をする。
そして、シズカとの深夜の会談がはじまる。