過去 3
「続きを聞こうか。」
戻ったリュウヤは、ドゥーマらに話の続きを促した。
小さな諍いは、ダグらが謝罪を拒否したことから解決の糸口を見つけられず、ずるずると時だけが過ぎていった。
そして、こういうことは時間が経つほどにもつれていき、取り返しのつかない事態へと進展していく。
土地の有力者の仲介を拒否すると、地元住民による嫌がらせが激化していく。
商売の妨害から、鍛治師としての工房への材料の搬入・購入妨害。
嫌がらせを受ける都度、抗議するが嫌がらせが止むことは無かった。むしろ陰湿さに拍車がかかる。
開拓集落の入り口に動物の死骸が置かれる。
それぞれの家に糞尿が投げ込まれる。
集落周辺の森で狩りを行い、わざと獲物を集落へと追い込み農作物に甚大な被害を与える、等々の嫌がらせ。
こういう嫌がらせというものは、相手に手を出させるために行う挑発である。そのため、現場を押さえる等、確実な証拠を掴まない限りは、決して報復などしてはならない、相手を責めるような言動をとってはならない。
たとえ、どんなに理不尽だと感じようと、我慢し続けなければならない。でなければ、相手はそれを口実にして攻撃をしてくるのだ。
そして、ドヴェルグと龍人族は相手の術中に嵌ってしまった。
その日、度重なる嫌がらせに業を煮やしたギドゥンら数名のドヴェルグは、相手の村長の家に押し掛けて抗議した。
そこには、この周辺を治める領主も、偶々いた。
そこでギドゥンらは、今までの嫌がらせの数々をあげつらい、糾弾する。
たが、村長はのらりくらりと言葉を繕い、それこそ"あっちへ行け"と言わんばかりの態度で応じる。
ただでさえ頭に血が上ってここに来たのだ。
ギドゥンらは村長の態度に激昂し、遂に手を出してしまう。領主の目の前で。
「話し合いに来たのかと見ておれば、なんら証拠もなく村長に詰め寄り、挙げ句の果てに手を出すとは如何な了見か!」
待ってましたとばかりに領主が激昂してみせる。
だが、ことここに至っても、ギドゥンらは自分たちの失敗に気がつかない。
もう少し冷静であれば、気づいたかもしれない。いかに領内とはいえ、領主が単独で村長の家にくるはずがないということに。
領主の兵が雪崩れ込み、ギドゥンらを袋叩きにする。
捕らえるのではない。ギドゥンらを集落へと逃げ込ませるのが狙いだ。
逃げ込んだギドゥンらを引き渡せば良し。拒めば、攻め滅ぼすだけ。
実のところ、この領主も当初はここまでする気はなかった。
ドヴェルグたちが非を認め、関係した村々に謝罪すればそれで事をおさめる気でいた。
だが、ドヴェルグたちは傲慢にも、この地の有力者の仲介を拒否し、徹底的に争う構えをみせた。
そして、目の前での村長への暴行。
領主の側からみれば、ドヴェルグたちは所詮は新参者でしかない。たとえ、優れた技能を持っていたとしても。
あのように反抗的な者たちの存在を許しては、領内の統治が揺らぎかねない。
それでも、この領主はまだ良心的かもしれない。
まだ許す機会を作っているのだから。
領主の兵と、この地の有力者の私兵。さらにはドヴェルグたちに反感を持つ各村の村人たち。合わせて1千人ほどが、集落を包囲する。
領主はドヴェルグたちに使者を送る。
要件はふたつ。
ギドゥンらの引き渡しと各村々への謝罪を行うこと。
そして、この騒動後にこの地から去ること。
この二点である。それを受け入れるならば、その命と家財の持ち出しを認める。
「領主様は甘すぎる!!」
そう非難されたが、領主は押し切った。
非難するのも理解できる。
村人はもちろんだが、仲介を拒否された有力者は完全に面子を潰されている。殺しても飽き足りないくらいだろう。
「奴らが受け入れると思うか?」
非難する者たちに、領主が問いかける。
ここで受け入れるなら、とっくに謝罪をしておさめているだろう。
ここで、非難していた者たちも理解する。
この領主様は、"最後まで慈悲をみせた"という形が欲しいのだ、と。
無論、無駄な血を流したくないという気持ちもあるだろうが、他の領主たちに非難されないための形式が必要なのだ。
一方のドヴェルグたちは、すでに結束はできている。
仲間を売るくらいなら、ここで戦ってやる、と。
「ここまで苦楽を共にした仲間を渡すわけにはいかない!」
ダグは使者に向かってそう叫ぶ。
だが、使者も食い下がる。
「今回の首謀者を引き渡せば、命と家財は保証されるのですぞ!」
「首謀者とはなにか!さんざん嫌がらせをしてきたのはむこうではないか!」
「それを言うならば、貴方方がこの地の慣習を破ったことが原因ではありませんか。」
そう言われると、ドヴェルグ側は言葉もない。
「よろしいですか。みなさんが慣習を破り、一切の謝罪を拒否し、この地の有力者の面子を潰したことも、全てが引き渡すことで許されるのですよ?なぜ躊躇われるのですか?」
使者はギドゥンらにも言う。
「貴方方が出頭すれば、仲間の命は救われるのですよ?」
使者は、情理を尽くして訴える。
「無駄な血を流さずに、終わらせられるのです。」
この使者は、その仕事に誠実であろうとした。無駄な血を流させないために。
だが、その誠実さは報われなかった。
一部のドヴェルグたちは、自分たちの結束を乱そうとしている、そう捉えたのである。
結果、この使者の誠実さは、最悪の所業を持って返される。
使者を殺害するという、野蛮極まりない行為によって。
そして、惨劇は始まるのだった。
さんざん嫌がらせをして、相手から喧嘩を売らせる。
こういうのが得意なのが、アメリカであり中国であったりします。
中国は、尖閣をはじめとする各海域で、現在進行形で行なっていますね。
アメリカはハルノートで日本を、アネックスBという文書でセルビアを、化学兵器関連でイラクをそうやって嵌めています。