過去 2
昨日は、間違って今日投稿予定を入れてしまった模様。
「ここからは、戻ってきた者たちからの伝聞になります。」
ドゥーマはそう断ってから、話し始める。
出て行った者はドヴェルグが100名ほどと、龍人族が30名ほどだったという。
彼らはまず南に向かい、その後、西に方向を転じたという。
それには理由があり、元々は西に直接向かう予定だったのだが、人間種至上主義を掲げる神聖帝国があるため、いったん南に向かい、その後に西に向かうことで避けるためだ。
それと、南にある都市国家群で、持ち出した自分たちの作品を売り、路銀を作る必要もあった。
その後、一年かけてこの大陸の西の果てに辿り着いた。
旅の途中では、修理・修繕や日雇い人夫などをする事で、路銀を節約。
中には、多くはないが途中の町で定着する者もいた。
途中で定着した者たちは、自分はここで稼げばいいからと、手持ちの路銀を仲間たちに渡していた。
大陸の西の果て。
そこは肥沃な、起伏の少ない大地が広がっており、まさに理想郷に見えた。
かつての、始源の龍の加護を受けていた故郷のように。
彼らは喜び、この地を開拓して集落を作り、定住のための準備を整えていった。
この地に辿り着いた者は、ドヴェルグ60名あまりと、龍人族20名あまり。
途中の町や村で定住した者ばかりではなく、野盗に襲われたり病倒れた者たちもいた。
その者たちのため墓地を作り、遺体の代わりに遺品を埋めた。
彼らの感じた幸福は、長くは続かなかった。
「何が起きた?」
「最初は、現地の者たちとの小さな諍いだったようです。」
「その理由は?」
「商習慣の違い、そう聞いています。」
詳しいことを聞きたいが、その報告をした者は、帰国して間もなく亡くなったという。
帰国した時には、すでにボロボロになっており、衰弱が激しかったというから、故郷に帰り報告した安堵感から力尽きたのかもしれない。
「ただわかっているのは、どうもダグの側が悪かったようです。」
そして、非常に些細なことでもあったので、一言でも謝罪をしていれば後の悲劇は免れただろうと、報告者は語っていたという。
「現地の者たちを見下していたか、ダグとやらのプライドが高すぎたか・・・」
「たしかに、ダグはプライドの高い男でした。」
ドゥーマが言うと、周りのドヴェルグたちも苦笑しながら同意した。
小さな諍いが、その対応を間違えたために大きな騒動になり、やがて手に負えない暴動へと発展する。
破滅へのありふれた話だ。
そう、ありふれた話。
あちらの世界でも掃いて捨てるほどの。
日本を例にとるならば、江戸時代に起きた百姓一揆などは、初手の打ち間違いから発生したものがほとんどだ。
相手に舐められまいとした態度が、誤解を招いたというところか。
「小さな諍いを、地元の有力者が仲介して治めようとして出てきたが、ダグたちはその仲介を拒否した・・・、そんなところか。」
皆が頷く。
仲介を拒否した結果、地元住民対ドヴェルグ・龍人族という構図が出来上がってしまう。
こうなってしまうと、収拾をつけるのは難しい。
やがて小競り合いが発生し、全面的な対決へと発展。
現地の有力者の仲介を拒否した以上、公正な対応など望むべくもない。
現地の有力者か統治者か。武力介入を招いてしまったことだろう。
有力者か統治者、彼らがどちらを味方するかなどわかりきったことだ。
そして、ドヴェルグ・龍人族のとっての惨劇が始まる。