過去 1
この地を出て行った者たちの話です。
約100年ほど前。
始源の龍の力も衰えが顕著に現れ、大地は地味を失い、荒涼とした姿を見せていた。
時の龍の巫女は、始源の龍の復活に消極的であり、若者たちはこの地に未来を描くことが難しくなっていた。
すでに多くのドヴェルグがこの地を去っており、最盛期には2万人いたドヴェルグも、この時には5千人を割り込んでいた。
「ここはもうダメだ!この地を出て、新しい土地を目指すべきだ!!」
そう訴えたのが、ギイとアイニッキの長男ダグだった。
この当時、ダグはすでに一定以上の実績を持っており、それなりの人望があった。
そしてなにより、現在の状況こそがダグの言葉に説得力を持たせていた。
「馬鹿者が!我らはこの地にて、始源の龍の恩恵を受けてきたのだ!その恩を忘れてこの地を捨てるなどできん!!」
それがギイを中心とした、長老衆の言葉だった。
だが、いくらギイたちがこの地にて、始源の龍の恩恵を受けてきたことを説明して説得しようとしても、ダグと彼に感化され先鋭化した若者たちは止まらなかった。
「それに感化された龍人族の若者たちも同調したと、そういうことか。」
「はい。」
今でこそ、この地は移住を受け入れる側だが、当時は逆だったということだ。
自分がこの地に来た時の様子を思い出せば、ダグとやらの主張も理解できる。
食料生産も、点在するオアシスでしか期待できず、大した量も作れない。
未来など想像すらできなかっただろう。
「それで、ギイたちと喧嘩別れでもしたのか?」
「そうなのですが、そこに龍人族も者たちも同調しまして・・・」
「その中に、サクヤに近しい者もいた。そういうことだな?」
皆が頷く。
「その、サクヤに近しい者とは、どのような間柄なのだ?」
「サクヤ様の兄君に当たられるお方です。そして、シズカ殿の婚約者でもあられました。」
大きな眩暈を覚える。
龍人族は王制ではなく、はっきりとした族長制でもないから、サクヤの兄といってもそういった身分があるわけではない。
だが、シズカの婚約者って・・・。
「そのことをサクヤは知っているのか?」
「まだ幼かったですので、はっきりとは覚えていないと思います。」
このすぐ後に、サクヤの父親も亡くなっているため、詳しいことは知らないだろうとのこと。
母親の方は、サクヤを産んでまもなく亡くなっているとのことである。
「それにしても、シズカの婚約者か。」
シズカがサクヤの側にいるのは、それが理由なのかもしれない。
「話の腰を折ってしまったな。続きを頼む。」
「わかりました。」
ドゥーマらの話は続く。
今後、かなり凄惨な話が出てくる予定です