ドゥーマ帰着
ドワーフの国に発注していたものが届く。
届けられたものは雲母である。
あちらの世界では、化粧品の原料としても知られているのだが、こちらの世界ではあまり馴染みがないようだ。
ちなみに、雲母は別名"きら"とも言い、忠臣蔵で有名な吉良上野介の出身地である愛知県吉良町は、雲母の生産地として有名で、そこから"吉良"の地名がついたとされている。
エルフたちの植物の知識と、ドヴェルグとドワーフの鉱物の知識が合わされば、鉛白や水銀を使わない白粉かその代用品が作れるのではないか、そう考えている。
そのための研究チームを立ち上げ、責任者にはエルフの女性ルーシを任命する。
化粧品は男性よりも女性の方がよく使うのだから、女性を責任者にした方が、より実用性の高いものが作製できるだろうという、安直な計算もあったりする。
「陛下、ドゥーマ殿が至急、報告したいことがあると面会を求めております。」
ミーティアの言葉だ。
ドゥーマ?
イストール王国への使節団の一員として送り出したメンバーの一人であり、ドヴェルグの技術者として技術交流をさせていたな。
だが、使節団の王宮への到着は明日だったはず。
そんなリュウヤの疑問を感じ取ったのか、
「ドゥーマ殿たち、ドヴェルグだけが先行して到着しております。」
ドヴェルグたちだけ?
より一層の疑問を抱くが、
「わかった。ドゥーマだけでなく、帰着したドヴェルグ全員と会おう。」
ドヴェルグ全員で戻って来たということは、彼らにとってとても重要ななにかがあったとみるべきだろう。
まさかとは思うが・・・。
「ギイも呼ぶか?」
「いえ、ドゥーマ殿からは、ギイ様、アイニッキ様には内密に、と。」
どうやら、"まさか"が当たってしまったらしい。
「さっきの言葉は取り消しだ。俺の方から行く。フェミリンス、悪いが後を頼む。」
後事をフェミリンスに任せ、リュウヤはドゥーマらのいる場へと向かう。
正直言って、関わりたくはないのだが、そうも言っていられない。
ミーティアに先導され、リュウヤは足早に歩いていた。
「久しぶりだな。」
「はい、陛下!」
リュウヤが現れると、ドゥーマらは立ち上がろうとする。
「そのままでよい。至急とのことだが、どのようなことだ?」
ドゥーマは答えるより先に、ミーティアを見る。
「ミーティア、アルテアと手分けして、ドゥーマらと接触した者たちに口止めせよ。」
「わかりました、陛下。」
ミーティアは退室すると、アルテアを呼び出して命令を実行するべく走り出す。
これで、ミーティアはしばらく戻ってこない。
「開拓地の集落にドヴェルグがおりましたが、ご存知でしたでしょうか?」
「報告は受けている。たしか、5日ほど前にやって来たと。」
報告では、やって来たのは50名ほど。集落の便利屋として働き出したとあった。
農具の修理や家の修繕。鍛治師としても働いているとか。
「そのドヴェルグの中に、ギイ様とアイニッキ様の御子息がおられます。」
やはり、と言うべきか。
「我々はよいのですが、ギイ様をはじめ、長老衆には彼らに良い感情を持っていない者が多いのです。」
そういって過去の話をし始める。
内容の大枠は、先日サクヤから聞かされたことと変わらない。
ただひとつ、違うのは引き連れて行った中に龍人族の若者が多数いたこと。そして、その龍人族たちは悲惨な末路を辿ったという。
「ちょっと待て!」
リュウヤが話を止める。
「その龍人族の中には、サクヤの近しい者がいるのか?」
自分にその話をする以上、その可能性が高い。
その言葉に、ドゥーマら全てのドヴェルグがリュウヤを真っ直ぐ見つめる。
リュウヤは大きくため息を吐く。
正直言って、関わりたくはなかった。だが、サクヤの近しい者が関わっている以上、関わらざるを得ないだろう。
腹をくくるしかない。
「お前たちの知る限りのことを、聞かせてくれ。」
ドゥーマらは大きくうなずき、暫しの沈黙の後、話し始めた。