ある日の侍女たち その2
国王リュウヤにより、白粉が禁止されてからひと月。
侍女たちの中には影響が出るものが現れている。
「う〜っ、日焼けがぁ〜。」
唸っているのはエストレイシア付きの侍女、シモネッタである。
エストレイシアが軍を統括している立場であるため、外での活動が多い。そのため、どうしても日焼けをしてしまうのだ。
これまでは白粉を使うことで防いできたのだが、それが禁止されてしまい、日焼けに悩まされている。
そのことを女官長ウィラに相談してみたが、
「後々、苦しみたいのならば使えばよいのではありませんか?」
と、にべもない。
他の侍女たちに話しを聞いてみると、どうやらウィラは白粉の危険性に気づいていたらしい。
彼女の先輩女官に、陛下のいわれた症状が出ている者がいたらしく、よくよく思い出してみるとその女官は、白粉をよく使っていたそうだ。
「ねぇアルテア。貴女は日焼け対策はどうしてるの?」
自分と同じく、外での活動が多いアルテアに、対策を聞いてみる。
「私は、特に何もしていません。」
同僚とはいえ、最年少かつ平民出身のアルテアは、どうしても言葉使いが硬くなってしまう。
だいたい、王宮勤めの女官というのは貴族の子女が多いのだ。
アルテアの、そのスレていない言動がリュウヤに好まれ、側に置いている理由のひとつなどとは想像もしていない。
「陛下は、少しくらい日焼けしている方が健康的で良いと、そう仰られておりますし。」
「はぁ〜、そうだったわね〜。リュウヤ陛下はそう言う人だった。」
シモネッタは頭を抱える。
「陛下も、日焼けも過ぎれば害になるからと、代用品の研究・開発をするように指示もしておりますよ。」
シモネッタを慰めるように、アルテアが言う。
リュウヤ付きだけあって、そういう情報は早い。ただし、ウィラからは陛下の言動を外に漏らすことのないように、厳重に言い含められてはいる。
また、リュウヤからも外に出してはいけないことは、直接口止めをされてもいる。
白粉に使われる鉛白や水銀の代用品の研究は、特に口止めもされてはいないから、外に出しても大丈夫だろう。
「エルフの方々に指示を出されていますから、すぐにできるのではないでしょうか。」
実際にはエルフだけでなく、なぜかドワーフの国にもなにやら発注しているらしいのだが、イメージ的にドワーフのことは伏せておく。
ドワーフ謹製の化粧品といわれても、ピンとこないだろうし。
「そういえば、陛下のおてつきになった人っていないの?」
いきなりの言葉に、アルテアは飲んでいたお茶を吹き出しそうになる。
「だってさあ。陛下のまわりって美人ばっかりいるのよ?なのに誰にも手を出さないなんて不思議じゃない?」
言われてみれば、たしかにそうかもしれない。
婚約者であるサクヤを除いても、リョースアールヴのフェミリンスにエルフのミーティアは常に側にいる。
デックアールヴのエストレイシアだっているし、アデライードもいる。
野生的な魅力ならナスチャもいるし、可愛いらしい兎人族のラニャもいる。
その気になれば、美女は選り取り見取りだ。
「それだけ、サクヤ様のことを愛していらっしゃるのでは?」
アルテアは一般論で返答する。
「英雄、色を好む」という言葉があるが、それが正しいならリュウヤ陛下もそうなのではないだろうか?少なくとも、サクヤ様と婚約をされているのだから、女性が嫌いということもないだろう。
「意外と、アルテアがおてつきになったりして。」
今度こそ飲んでいたお茶を吹き出す。
「シモネッタ!!」
アルテアは顔を真っ赤にして怒る。
「ごめんね〜。」
シモネッタが謝罪になってない口調で言うと、さっさと逃げ出していく。
自分が吹き出したお茶のあとを拭き取り、シモネッタが残した食器を片付けるアルテアだった。