ギイとアイニッキの子供の話
久々の1日2回更新
夜もかなり更けてきたころ、猫人族の少女を看病しているサクヤの元に、アイニッキがやってきた。
「ごめんなさいね、サクヤちゃん。」
仁王立ちになり、ギイを叱責していた人物とは思えないほどの、おだやかぶりである。
「様子はどう?」
「呼吸も脈も落ち着いているから、もう大丈夫だろうって、リュウヤ様が。」
「そう。それは良かったわ。もしものことがあったら、あの人の首を刎ねなきゃいけないところだったわ。」
そう言いながら、自分の首を軽く叩く。
その様子にサクヤもクスッと笑う。この猫人族の少女シュリ(リュウヤが席を外していた間に自己紹介を受けていた)が無事だったことで、ホッとしているのだろう。
「それにしても、リュウヤさんは色々と知っているんですねぇ。」
「はい。未発達な子供にお酒を飲ませると、こういうことが起きるのだそうです。大人でも、いっぺんに多量のお酒を飲んでもいけないと。」
リュウヤが住んでいた地域の居酒屋では、大学が近いこともあってか、「一気飲み禁止」の張り紙があったりもする。
「ドヴェルグやドワーフは大丈夫かもしれないが、他種族には、注意しなければいけない、そうも言われていました。」
リュウヤのいた世界、日本人はアルコールを分解する酵素を持たない、もしくは少ない人がいることが知られている。
同じ人間でもそういう差異があるのだから、種族による差異もあるのだろう。
「ねえ、アイニッキ。リュウヤ様から尋ねられたのだけど・・・」
「なにかしら?」
「ギイとアイニッキには、子供はいないのかって。」
話していいだろうか、その言葉が言外に含められている。
「私は、話してもいいと思うけれど、あのひとがねえ。」
嫌がるかも知れない。
ギイとアイニッキには3人の息子がいた。
そのうち、上のふたりはこの地を去り、末の息子はこの地に残った。
末の息子はその後、落盤事故により事故死してしまう。
ふたりは大きく落胆した。救いだったのは、息子は仲間を救うために最後まで踏み止まり、脱出のタイミングを逃したことによる死だったということ。
息子により助け出された者たちがいた、そのことがなによりも救いになり、助けられた者たちもそれまで以上にギイに師事した。
「自分には、もはや血を分けた子供はいない。こいつらが子供だ。」
そういって、その者たちの面倒を見ることで、心の傷を癒してきたのだ。
だが、ギイの末の息子への思いと、上のふたりの息子への感情は大きく異なる。
上のふたりは、この地を捨てた者。しかも、共存してきた龍人族を侮辱し、
「この地には未来がない。」
そう言って出て行ったことが許せない。それでも、ふたりだけで出て行ったならまだ許せたかもしれない。
ふたりの息子は、多くの者を引き連れて出て行ったのだ。
それだけで話は終わらない。
引き連れて行った者たちは、その後、散り散りになってしまった。
それを知ったのは何年か経って、ボロボロになりながら帰ってきた者の口からである。中には、奴隷として売られた者さえいたという。
そのことが、ギイの怒りに拍車をかける。
「出て行ってから、もう100年も経つのだけどねぇ。」
いい加減、許してもいいのではないかとアイニッキは思う。だが、ギイは許すことができない。そして、その想いを理解できるからこそ、"許したら"と言えない。
「リュウヤさんに話してもいいわよぉ。」
リュウヤなら、あれこれ引っ掻き回すようなことをしないだろうから。そう付け加える。
「じゃあ、後は任せて、サクヤちゃんも休みなさい。」
「はい。後はお任せしますね。」
アイニッキに後を任せて、サクヤも自室へと戻っていった。




