子供らの交流
獣人族移住団とその護衛、あわせて100名。
その全員を集めての、歓迎式典という名の宴。
一番張り切っていたのはギイである。
今度こそ、思う存分酒を飲める!!
その一念で準備を整えている。
その淡い望みは、いとも簡単に砕かれる。
アイニッキが参加するのだ。
最近、アイニッキが行事に参加するようになったのは、サクヤの代行をしたことによる。
代行を務めたことでその実務能力が周囲に認識され、公的な場への出席を求められるようになったのだ。
ただ、役職は本人が辞退しており、名目はサクヤの相談役である。
会場にアイニッキが現れた瞬間、意気揚々としていたギイの表情は、それはもう可哀想なくらいに萎んでいた。
流石に準備を張り切ったギイに、そこまで我慢を強いるのはどうかと、アイニッキに打診する。
「周りに迷惑をかけないなら、良いですよ。」
とのこと。ただし、アイニッキから見て、周囲に迷惑をかけていると判断したら即退場。
ギイにそのことを伝えると、受け入れるとのことである。
「いいかギイ。主賓のほとんどは15歳に満たぬ者たちばかりだ。くれぐれも、今までのようなことをするなよ?」
「わかっとる、わかっとる。」
ギイの返事を聞いて、"これは絶対に理解してないな"と判断する。酒が飲めるということに浮かれているようだ。
アイニッキの逆鱗に触れたとしても、それは自業自得だろう。
こちらに火の粉が降りかからないようにしてほしいものである。
歓迎式典開催。
ギイのとばっちりを受けぬよう、リュウヤも策を巡らせている。
今回の主賓の年齢を鑑みて、こちらもパドヴァの少年少女たちをはじめ、領内の子供達を選抜して参加させている。
子供たちの存在がどこまで抑止力になるか、怪しいところではあるが。
また、子供たちが多くいるということは、酒よりも果汁を使用した飲み物が多く供されるということ。その分、酒の持ち込み量は減少しているはず。
一方、リュウヤの策謀を知らない獣人族移住団は、子供たちに囲まれていた。
そこには人間の子供もいれば、エルフや両アールヴ、ドヴェルグ、ドワーフの子らもいる。
獣人族の皆は戸惑っていた。
ここまで歓迎されるとは思いもしておらず、なによりも偏見なく接してもらえるとは思いもしなかったのだ。
それが嬉しいのか、獣人族もはしゃいでいる。
「リュウヤ陛下。このような宴を開いてくださり、ありがとうございます。」
アミカがリュウヤに感謝の想いを伝える。昼間に比べて、いくらか表情も和らいでいる。
「今日はゆっくり、楽しむといい。」
「はい!」
元気よく返事をすると、子供らの輪に入っていく。
そして入れ替わるように来たのが、
「りゅーやさま!!」
リュウネである。
「みんなね、耳と尻尾がついてるの!」
「そうか。」
「うん!全部本物なんだよ!!」
興奮気味に話すリュウネの頭を撫でながら、
「仲良くできそうか?」
そう聞くと、
「うん!!」
元気のいい返事が返ってくる。
「みんなのところに行ってくる!」
パタパタと、みんなの輪の中に入るべく走って行った。
その様子見ていたサクヤは、
「いいものですね。」
そう呟き、リュウヤがそれを引き取る。
「そうだな。」
近い年頃(実年齢ではなく精神年齢)の友人が、リュウネには少ない。今回の獣人族の子らの移住は、リュウネにとって大きな刺激となり、健やかな成長の糧となるに違いない。
「サクヤ、この場は任せる。」
いつまでも子供らを見ていたいが、移住団の護衛隊長カイオンから話を聞かねばならない。
神聖帝国との戦況を。
ミーティア、フェミリンス、エストレイシア、そして本来はサクヤ付きとなっているナスチャを伴って別室へと移動する。