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龍帝記  作者: 久万聖
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獣人族移住団

 移住団第一陣、総数100名。


 その顔ぶれは、よく言って若い。

 率直に言うならは幼い。

 最年長が護衛隊を指揮してきたカイオンの26歳。最年少が6歳の兎人族の少女。平均年齢が10代前半になる。


「ある程度は予測していたが、これほどとはな。」


 リュウヤが呟く。


「これは移住ではありませんね。」


 ミーティアがその呟きに応じる。リュウヤの呟きを愚痴と勘違いしてのことだ。


「それはいいんだ。俺が気にしているのは・・・」


「神聖帝国との戦況の悪化、ですね?」


 リュウヤとともに出迎えに出たフェミリンスが、言葉を引き継ぐ。

 フェミリンスの指摘に頷くと、


「予想より早く、神聖帝国と戦うこともありうるな。」


 そのあたりは、すでに情報収集をしているエストレイシアと協議する必要があるだろう。


「軍事顧問団の派遣も、検討しなければならんかな。」


 特に、デックアールヴの城砦設計能力は高い。彼らを派遣して、国都ボースをはじめとして防衛力向上を目指してもらう。


 そこへ、


「間に合いました。」


 息を切らしてやってきたのはサクヤらである。


「ギリギリとは、サクヤらしくないな。」


 いつもなら、余裕を持って来るのだが。


「それは、着替えに手間取ってしまいまして・・・」


 まあ、女性の着替えというものは、なにかと時間がかかるものである。なので、リュウヤは特に気にすることなく見ずにいたのだが、サクヤはチラチラとリュウヤを見ている。


 それに気づいたのは、当然リュウヤではなくミーティアだった。

 咳払いをすると、周囲に見えないようにリュウヤの太腿を(つつ)く。

 それに気づいたリュウヤがミーティアを見ると、視線と指先でサクヤを見るように促している。

 そこでサクヤを見てみると、いつもなら流れるままにしていたその長い髪をアップにしており、顔もその清楚さを失わない程度にうっすらと化粧を施している。唇にも淡い紅がさしてある。


 "アデライードの紹介で入ってきた商人が、化粧品を持ち込んでいたな"と、思い出す。


「綺麗だよ。よく似合っている。」


 サクヤの耳元で囁く。


 その言葉にサクヤの表情は綻んでいる。


 リュウヤはサクヤのメイクを見てホッとする。白粉(おしろい)を使っていないようだったからだ。

 あちらの世界、日本では20世紀のはじめまで鉛白(えんぱく)入りの白粉が作られていた(注1)。その当時の日本よりも遥かに科学技術が劣るこの世界でも、当然、鉛白や水銀が使用されていると考えるべきだろう。鉛白は鉛中毒を、水銀は水銀中毒を引き起こす(注2)。


 この世界での製造方法を調べ、場合によっては国内での製造・販売を中止する必要があるだろう。


 だけど、色々なところから恨まれそうだ。製造・販売業者に、すでに買ってしまった者たち。

 害があるとわかっている以上、捨て置くわけにもいかないからなぁ。

 代わりになる物の開発が必要だが、どうするか。


 そんなことを考えていると、移住団代表がリュウヤの前まで来ていた。その顔を見て驚く。


「貴女はガルフ殿の御息女ではないか。」


 熊人族族長にして、獣人族代表ガルフの娘。獣人族の国都ボースで行われた歓迎式典で顔をあわせている。


「たしか名は、アミカだったな。」


「はい、覚えていただき、光栄にございます。リュウヤ陛下。」


 やや、たどたどしい口調。たしか年齢は15歳だったはず。緊張しているのだろう。


 だが、それにしても熊人族は大きい。15歳にして180センチ超えのリュウヤと目線がほとんど変わらない。顔立ちはまだ幼いのに。


「ラニャ。移住団の皆を案内せよ。」


 今夜開かれる歓迎式典まで、ゆっくりと休ませるよう伝える。


 続いて現れたのは、護衛隊の面々。


「身体は大丈夫か、カイオン。」


「はい!また陛下の手ほどきを受けたく思い、気合いで治しました!!」


 気合いで治すって、どんだけ脳筋だと苦笑する。


「わかった。なるべく時間を作って、相手をしよう。」


 カイオンに答えつつ周囲にいる部下を見ると、皆、その視線が泳いでいる。今度は別の意味で苦笑する。

 そこで、


「その時は、龍人族も交えて行うことにしよう。」


 その言葉に龍人族から無言の怨嗟がほとばしる。


「是非!お願いします!!」


 空気の読めないカイオンが、元気よく返事をする。


 無言の怨嗟の声が、絶望の声に変わった瞬間だった。

注1:1930年代まで鉛白入りの白粉が作られており、大正天皇が脳症を罹患していたのは、宮中の女官が使用していたのを意図せず吸引していたからという説もある。


注2:ともに末梢神経に障害をもたらし、場合によっては脳症を引き起こす。水銀中毒は、水俣病(みなまたびょう)が特に有名。

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