ある一日
「退屈〜!」
リュウヤの執務室で騒いでいるのはラニャである。
「退屈、退屈、退屈〜〜!!!」
この地に来て一か月。
当初は、子供たちに囲まれて、
「ねぇねぇ、その耳本物?」
「丸い尻尾、可愛い!」
等々、ちやほやされていたのだが・・・
それが一週間、二週間と続くと、今度はうざったくなる。
そのため、リュウヤの執務室に避難をしているのだが、今度は誰もかまってくれなくて退屈してしまう。
その結果が、駄々っ子のように暴れる現在の有様である。
いい加減、ラニャがうざくなって来たリュウヤは、机上のベルを鳴らしアルテアを呼ぶ。
「このウサギを連れ出してくれ。うるさくてかなわん。」
「わかりました。」
アルテアの頭の上にいる、サスケの8つの目が光ったように見える。と、次の瞬間、ラニャをその糸でぐるぐる巻きにして引きずっていく。
「それでは、失礼します。」
アルテアは何もなかったかのように部屋を去って行き、その姿をミーティアはシュールなものを見たかのような面持ちで見送った。
「なにか、アルテアも蜘蛛使いのような貫禄がついて来ましたね。」
苦笑しながらミーティアが呟く。
「元々、素質はあったのかも知れんな。ナスチャに色々と教わってもいるようだ。」
ナスチャも、アルテアの素質に驚いていた。
一族外に、こんな素質がある者がいるとは思わなかったと。
ただ、蟲使いは産まれた時からの訓練が必要で、アルテアの年齢ではサスケを使いこなせるかどうかだという。
「それに、サスケはアルテアについてるというよりも、王様に服従しているついでに、彼女についてるようなものだからね。」
要するに、リュウヤがアルテアにつけたから、アルテアに従っている、そういうことらしい。
「最近はアルテアも開き直ってますけど、しばらくは大変だったんですよ。」
常に頭の上にいるサスケのせいで、同僚の侍女たちから避けられ、エルフからも避けられと、涙目になっていた。
最近では、侍女たちは慣れてきたようで、避けられることはなくなったようである。
大半のエルフは、相変わらずのようだが。
「そういえば、そろそろじゃないか?獣人族の移住団第一陣が来るのは。」
「そうですね。100名前後と、先ぶれがありました。」
各種族10名ずつとその護衛30名で100名、そう報告を受けている。
書類のひとつに目を落とす。
「蚕に似た蛾を見つけたか。」
おそらくはヤママユガだろう。カイコガに似た性質を持ち日本では野蚕として珍重されている。
ただ、飼育は難しいと本で読んだ覚えがある。
蛾使いのカラザがいるから、試行錯誤を繰り返しはするだろうが、うまくいくだろう。
さらに書類を読み進めると、森の外周部の集落の服属が決まったようだ。だが、予想通りと言うべきか、服属させようとしていた国からの抗議が来ている。
まあ、その抗議は無視すればいいだろう。
念のために、相手国には脅しをかけておくが。
「移住団第一陣が到着したようです。」
「そうか、では出迎えるとしよう。」
獣人族を出迎えるため、リュウヤはミーティアを伴って部屋を後にした。