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龍帝記  作者: 久万聖
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帰還報告

 予定を数日超えて、リュウヤらは岩山の王宮に帰還する。


 出迎えるアイニッキに、リュウヤは言葉をかける。


「色々と手間を取らせたな。感謝する。」


 その短い言葉に引っかかりを覚えたのはサクヤ。

 手間を取らせた?

 それはどういう意味だろう?

 そう思い、考えるが、言葉にしたのは、


「アイニッキ、留守番をありがとうございます。」


 だった。


「いいえぇ。トモエやシズカがほとんどやってくれましたからぁ。」


 やや間延びした口調でアイニッキは答える。そして、


「楽しめたかしらぁ?」


「えぇ、とても!!」


 サクヤがそう答え、ふたりは笑いあう。


 一方でリュウヤは、萎れたように見えるギイに声をかける。


「元気が無いようだが、大丈夫か?」


 それに答えたのはギイではなく、アイニッキだった。


「この人ったら、陛下とサクヤちゃ・・・、サクヤ様の無事を祈願して"酒断ち"をしていたんですよぉ。」


「ギイが酒断ち!?」


 マジマジとギイの顔を見るリュウヤ。そして察する。

 自主的な酒断ちではなく、アイニッキの目が光っていたための、結果的な酒断ちであることを。


「まあ、ありがとうと言っておこう。」


 ギイの肩を叩きながらリュウヤが言う。


 ギイからは、大きなため息が漏れた。








「予定より遅れての帰還、迷惑をかけた。」


 帰還報告はリュウヤの謝罪からはじめられる。

 そのことに驚いたのは、リュウヤらとともにこの岩山の王宮に来たナスチャと、獣人族の移住団に先行してやって来たラニャだ。

 王を名乗る者が、こうも簡単に頭を下げるとは思いもしなかったのだ。


「また、獣人族の国との実質的な攻守同盟を、独断で決めたことも合わせて謝罪する。」


 獣人族の国はすでに長い神聖帝国との戦いにあり、リュウヤの決断はそれに巻き込まれることを意味する。


 本来なら、三年ほどは内政に専念する予定だったのだが、それが狂ってしまうことになる。


「わかりました。いつでも派遣できるよう、準備いたします。」


 エストレイシアが応じる。

 リュウヤが即決したということは、それなりの理由があるということだ。その説明は、これから本人がするだろう。


「話が早すぎるだろう、エストレイシア。」


 苦笑しながら、リュウヤは状況と理由を説明する。


「現状では、獣人族の国は三年も保たないだろう。」


 神聖帝国が圧力をかけて周辺国も巻き込んだ事実上の経済封鎖。それにより物資が欠乏し始めている。

 チラ見した程度でしかないが、店で売られている物の偏りがそれを示している。

 経済封鎖が続けば、獣人族の国は疲弊して敗亡する。

 そしてもうひとつ。獣人族の国が相手をしている神聖帝国だ。

 人間至上主義を掲げ、異種族を敵視しているとなると、多種族共栄を目指す龍王国(シヴァ)とは相容れない。


「だから支援するし、援軍も派遣する。」


 援軍を派遣すると言っても、限定的な役割になるだろう。


「遅かれ早かれ、戦わざるを得ない相手というわけじゃな。」


 ギイが神聖帝国をそう評する。


「その可能性が極めて高い、そういうことだ。」


 リュウヤがギイの言葉を肯定する。


 報告は同盟のことだけではない。


 蟲使い一族の位置付け。

 現在居住している地域とその周辺を、蟲使い一族の自治地域とすること。

 リュウヤの研究に参加する蟲使いがいること、蟲を使うことで食料生産に協力する者たちが近々やって来ること、それらが併せて伝えられる。


「蟲で食料生産に協力、ですか?」


 食料生産担当のエルフ、ラティエとルドラは懐疑的な声をあげる。


 リュウヤは説明する。


「果樹や野菜類の受粉に害虫駆除。それをできるだけでも、大きな力になると思うが?」


「受粉なら、エルフにも養蜂をしている者がおります。」


「だが、蟲使いたちほどの効率は無かろう。」


 反論するルドラに、リュウヤは指摘する。


「蟲使いたちの知識とエルフの知識が合わされば、より良い養蜂もできるだろう。」


「そうですが、害虫駆除には・・・」


「蜘蛛もいる。」


 "うわぁ"という顔をふたりのエルフはする。


「可愛いものだぞ、蜘蛛も。狩人としても、とても優秀だ。」


 狩人として優秀。たしかにその通りなのだが、森の中で出会ったかつてのデス・スパイダーを思い出すと、苦い気持ちになってしまう。


 また獣人族の移住団受け入れについての報告も行う。


 こちらに関しては、今までの移住の受け入れの延長上と考え、そのように対応すること。


 以上がリュウヤからの報告となる。


 そして、今度はリュウヤが居なかった間の報告を受ける。


 大きな報告はふたつ。


 ひとつは、今まで庇護下に入ることを拒んでいた森の外周部の集落が帰属を求めてきたこと。


「帰属させるのはよいが、その裏は調べているのか?」


 突然の方針転換。裏側になにがあるのか、"疑うな"という方がおかしいだろう。


「はい。調べてあります。」


 ルドラが調査したことを報告する。


「開拓集落方面の一部の国から接触があったようです。」


 その接触は武力をちらつかせたもので、龍王国側の提示した条件よりも相当に厳しいものだった。

 龍王国側の提示した租税が2割なのに対し、接触した国は5割。しかも武力をちらつかせるて脅して来ている。

 集落側として、どちらを選びたくなるかは、自明というものだろう。


「それを受け入れるのはよいが、前と同じ内容というわけにはいくまい。」


 租税を3割に引き上げ、それでもよいのならば庇護下に受け入れる。

 こちらも、相手国次第では武力投入があり得るため、エストレイシアに準備を命じる。


 もうひとつはアデライードから報告される。


 いくつかの商人から、交易を行いたいとの申し出があるとのこと。


 その選別はアデライードに任せられる。


「時には、陛下のお出ましが必要になるかと思いますが、よろしいでしょうか?」


「かまわない。」


 アデライードの問いに即答する。


 これにより、報告会は終了する。


「さあ、後は(うたげ)じゃな。」


 ギイが張り切りだす。


「やっと酒断ちが終わる。」


 リュウヤとサクヤ、ふたりが無事に帰って来たのだから、もう飲んでもいいだろう。

 そこへ水を差すのはアイニッキ。


「今日はおふたりとも帰国したばかりでお疲れでしょうから、簡素にいたしましょう。」


 その言葉に、リュウヤは"ありがとう、アイニッキ"と心の中で感謝し、ギイは、


「無事に帰って来たのじゃから、盛大にとは言わずとも、それなりにやるべきじゃろ?」


 と口に出して抗議する。


「わかりましたわ。では、ギイ()のいわれるそれなりの十分の一くらいで行いましょう。」


 アイニッキがさらりと言い、宴の準備が始められる。









「あの、アイニッキ。」


「どうしたの、サクヤちゃん。」


 サクヤはアイニッキを呼び止め、引っかかりを覚えたことの確認をする。


「リュウヤ様は"手間を取らせた"と仰られていましたね?」


「そんなこと言ってたわねぇ。」


「あれはもしかして・・・」


 そこから先を言おうとするが、その唇にアイニッキが人差し指を当てて遮られる。


「サクヤちゃん。貴女はとても愛されているわよ。」


 その言葉で、サクヤは悟る。

 今回の自分の脱走、それはリュウヤが手を回したこと。

 おそらくは、自分の精神状態を理解していたのだろう。


「ありがとうございます、リュウヤ様。」


 この場にいないリュウヤへ、心の中で感謝の言葉を紡ぐ。

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