稽古
帰国を1日伸ばし、リュウヤは獣人族の主だった戦士たちに稽古をつけることになった。
なぜそうなったかというと・・・。
前日の歓迎式典の最中、リュウヤに突っかかってくる獅人族の若者が現れたことによる。
名前はカイオン。
かつてシヴァの森に入り、アカギらに叩きのめされたのが彼の配下だったことから、リュウヤに突っかかってきたのだ。
その話の流れで、名目上は稽古、実質は模擬試合を行うことになった。
カイオンの周囲は"来賓なのだから"と、彼を宥めすかそうとしたのだが無駄に終わってしまった。
「ウチにも、蜘蛛使いが居たか。」
とは、獅人族族長リュシオンの言葉である。
稽古前にリュシオンは、
「ウチの馬鹿息子が申し訳ない。」
そう謝罪し、
「元気があっていいことです。」
とリュウヤは笑う。
「なにせ、我が国では私相手に稽古をしようなどという者が居なくなりましてな。退屈していたところです。」
と付け加える。
精強を誇るはずの龍人族が束になってすら、一太刀も浴びせることができず、叩きのめされているため、誰も挑戦しようとしなくなってしまったのだ。
リュウヤとしては、久々の挑戦者の登場が楽しみだったりもする。
訓練場にて、リュウヤとカイオンが対峙する。
リュウヤが持つのは一振りの木剣のみ。
カイオンは木剣と盾を持って構える。
「はじめ!!」
グリフの合図で稽古は始まる。
一時間後。
そこにはボロボロになったカイオンの姿があった。
だが、ボロボロになりつつも、まだ立ち上がろうとしている。
ひとりで自分に立ち向かい、なおかつここまで粘るのは初めてだ。
「まだやるのか?」
リュウヤの問い掛けだ。
「まだ、やれる。」
そう言いながらも、すでにフラフラになっており、勝てないことはわかっている。
だが、せめて一太刀浴びせなければ獅人族として、自分が率いる部下の誇りが保てない。
「うおぉー!!」
最後の力を振り絞って、雄叫びをあげながらリュウヤに打ちかかる。
その結果はー
気づいたとき、カイオンは控え室のベッドに寝かされていた。
側にいるのは父であり獅人族族長のリュシオン。
「ボロボロになったものだな。」
自分を見て起き上がろうとする息子を制して語りかける。
「どうだった、稽古をつけてもらった感想は?」
「上には上がいる、そのことを思い知らされました。」
「跳ねっ返りのお前が、それを理解しただけでも成長した証か。」
父の言葉に反論ができない。
今まで、自分こそが強者だと思っていたのだ。それが、あのリュウヤという男に、文字通りに手も足も出なかった。
「龍王国に移住団を送り出すことになっている。お前も行ってみるか?」
「是非とも、行かせてください。今よりも強くなってみせます。」
「わかった。そのように取り計らうとしよう。」
カイオンは、移住団の一員としてではなく、護衛として参加することになる。
この日、リュウヤはカイオンだけでなく、希望者全員と稽古をつけていた。