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龍帝記  作者: 久万聖
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出陣

戦闘は、もう少しお待ちください。

 作戦会議後、みんなが準備に奔走するなか、リュウヤは依代の少女の様子を見に行くことにした。


 "ああいうことができた理由って・・・"


 "魂の融合が原因であろうな"


 疑問にアッサリとシヴァが答える。シヴァとの会話は、これも魂の融合のおかげで念話でやり取りできる。これは、他人に聞かれることがないので、重宝しそうだ。油断すると、シヴァが巫女姫あたりに流しそうではあるが。


 シヴァが語るところによれば、魂の融合によって、かつてシヴァと融合した魂の記憶や知識、人格がリュウヤにも流れたのだろうとのこと。


 "人格?それって多重人格ってことか?"


 と思ったが、あくまで一時的なものらしい。そう遠くないうちに、リュウヤに統一されるのだという。過去のサンプルは二人だけのため、アテになるかは不明だが。


 依代の少女はいまだ眠っている。

 リュウヤが憑依していたことで、かなり消耗していたのだろう。


 "その娘が気になるのか?"


「なんか似てる気がしてね。」


 他に人がいないため、口に出している。

 リュウヤが大型トラックから守り、代わりに轢かれた時の少女に似ている、そんな気がしていた。あの少女の顔もはっきり見たわけではないので、単なる思い込みの可能性大ではあるが。


 軽く頭を撫でるが、目を覚ます気配はない。


「二度と、こんな少女が現れないようにしたいな。」


 そう呟くと、リュウヤは部屋を後にした。



 大扉の前から敵の様子を見ている。

 ギイの見立てによれば、最大1万5千。軍旗の模様からすると、近隣で最大の国イストールの軍隊らしい。

 三年ほど前に代替わりして、若い王になったとか。

 先代の王は穏健派で、周囲の国やこの地に住まう者たちとも友好関係を築いていたそうだ。「大国であるからこそ、節度を守る」、そんな良識ある王様だったのだろう。"大王"と呼ぶに相応しい人物だったと、ギイは言っていた。


 先代が偉大だった場合、後継者はだいたいふたつのケースに分けられる。

 ひとつは、先代を見習って平和的に維持・発展させていくケース。日本の徳川秀忠がこのケースにあたるだろうか。

 ふたつ目は、先代以上の功績をあげようとするケース。このケースの場合、特に軍事的行動に出ることが多い。成功すれば良いのだが、失敗するケースの方が圧倒的に多い。成功者の例ならばオスマントルコ帝国のメフメット二世。あえていれるならマケドニアのアレクサンダーか。

 失敗例ならば、隋の煬帝は最初に挙げられるだろう。日本なら武田勝頼か。蜀漢の姜維などもいれていいかもしれない。

 失敗例に共通するのは、それまでに築かれていた外交関係や、国内状況を無視した行動を取ること。

 若いイストール王はどちらか。即位後は、周辺国に高圧的な態度を取っているとのことだが。



 敵を見ながらぼんやりと考えていると、巫女姫と二人の従者、ギイの四人がやってきた。


「準備は整ったのかい?」


「はい。私どものほうは、すでに準備万端です。」


 巫女姫が答える。穏やかな巫女姫と対象的に、ふたりの従者の雰囲気は剣呑になる。

 "無礼者!!"といったところなのだろう。

 巫女姫はふたりをたしなめると、持ってきていた箱を差し出す。


「これをお使いください。」


 差し出された箱を開け、中の物を取り出す。

 銀に似た金属で編み込まれたもの。鎖帷子というやつか。


「ミスリル製じゃな。」


 ギイはそう言って鎖帷子を鑑る。


「見覚えがある。若かりし頃のワシが作ったものじゃ。持ち主は・・・」


 そう言いながら巫女姫を見る。


「私の父の物でした。」


 遺品ということか。それを渡すとは・・・。


 "惚れられておるのかもしれんな"


 余計なことを言うな、シヴァよ。意識してしまうではないか。内心でシヴァに毒づく。

 従者たちは慌てたように、巫女姫に考え直すように説得しようとしている。それも、


「奥にしまっておくよりも、これから戦いに出る者のために使う方が良いではありませんか。」


 と言われ、引き下がる。

 巫女姫とギイに手伝ってもらい、鎖帷子を着る。そして、


「リュウヤよ。得物は持っているのか?」


 ギイの言葉に、リュウヤは両手をあげる。

 立派な丸腰だ。


「手ぶらで行くつもりだったのか!」


 従者のひとりが怒って言う。


「そんなことだと思ったわい。」


 ギイが持ってきていた剣をリュウヤに渡そうとする。


「いらないよ。得物なら、使いきれないくらい持って来てくれているんだから。」


 その言葉に四人はポカンとした顔を見せる。

 言葉の意味を最初に理解したのはギイだった。

 大笑いしながら、


「たしかに、彼奴らが持って来ておるの。」


 とある方角を見やる。巫女姫らも視線をギイに合わせ・・・


「「「あっ!」」」


 同時に声をあげる。

 その視線の先には敵軍がいる。リュウヤが言うところの

「武器を持って来てくれる相手」というのは、その敵軍のことだ。


「豪気なものじゃて。」


 愉快そうに笑うギイ。

 よほどの大物か、それとも大馬鹿かと呆れる従者ふたり。

 頼もしそうに見る巫女姫。


「そろそろ行くとしようか。」


 その言葉を合図に、シヴァは本来の巨体へと変貌する。

 軽やかにその背に乗るリュウヤに


「このふたりをお連れください。」


 巫女姫からの申し出があった。


「シヴァ様の復活で、私たちも力を取り戻しつつあります。ですので、足を引っ張るようなことはないと思います。」


 こちらとしてはかまわないのだが、当のふたりはかなり憮然とした表情をしている。"お前のことなど認めないぞ"というオーラが出ているようだ。


「ふたりとも優れた射手ですので、リュウヤさまの援護ができるでしょう。」


 うん、背中を撃たれないようにしないといけないね。


「ふたりはいいのか?」


 一応、儀礼として聞いておく。


「誠に不本意ではありますが、同行させていただきます。」


 巫女姫の右側に控える、ショートカットくらいの髪の長さの従者が答える。左側に控えているロングヘアの従者はというと、無表情に、眼光だけは鋭くこちらを見ている。


「じゃあ、ふたりとも乗ってくれ。苦情は、終わった後に受け付けるから。」


 従者ふたりもシヴァの背中に乗る。


「リュウヤ!」


 ギイはリュウヤに呼びかけると、剣を投げ渡す。


「流石に、丸腰で行かせるわけにはいかんからな。」


 そう言ってニヤリと笑う。


「有り難く頂戴するよ。」


 ギイにそう返すと、シヴァに号令をかける。

 ゆっくりと空に舞い上がる、旋回し高度を上げていくシヴァ。


「振り落とされるなよ!」


 従者ふたりにリュウヤが声をかけると、シヴァは速度を上げていく。

 その時、巫女姫とギイの不穏な会話が聞こえたような気がした。


「我らの王の初陣じゃな。」


「はい。必ずや勝利し、戻って来られることでしょう。」



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