同盟成立
書いたのが消えてしまってた・・・
正装をしたサクヤが、リュウヤとともに部屋から出ると、アルテアが部屋に残っているフェミリンスとナスチャにお茶を淹れる。
「よかったのかい?」
ぞんざいな口調はナスチャである。
「なにがでしょうか?」
「正装を貸したことだよ。」
"貸さなければ、あんたが王様と一緒に行けただろう"、そう続けている。
「私が行くよりも、次期王后たるサクヤ様の方が相応しい、それだけですよ。」
「ふーん。その割には、残念そうな顔だったけどな。」
「そのように見えたのですか・・・」
自身の持つ複雑な胸中が、面に出てしまったのだろうか。
「惚れてんなら、遠慮なんてしないでガツガツ行っちまえばいいのに。」
ナスチャの率直な物言いへの反応を隠す為か、フェミリンスは窓の外へ顔を向ける。
「事は、そんなに簡単ではないのですけどね。」
その言葉は表に出る事はなく、口の中で止まっていた。
会談場所として指定された部屋の前にて、リュウヤは衛兵に止められていた。
腰に佩ている剣を見咎められたのだ。
「この中には武器を持っての入室は、法により禁じられております。」
リュウヤを止めたのは、真っ白い体毛が目立つ狼人だった。
「わかった。国法ならば仕方がないな。」
そう言いながら腰の剣を渡す。
「貴殿の名を聞いてもよいかな?」
「は、はい。フェイルと申します、龍王国の王よ。」
「フェイルか。その名を覚えておくとしよう。」
短いやり取りの後、リュウヤは部屋へと入って行く。
「おい、フェイル。よくもまあ、あんなことを言えたな。」
剣を受け取ると、その場にへたり込んだフェイルに同僚の狼人が声をかける。
「こ、怖かったぁ。族長全員より、よっぽどプレッシャーがあった。」
漏らすかと思った、そう付け加える。
「戦いになんて、ならないよな?」
「やめてくれよ、ギリ。そんなこと、考えたくないぞ。」
ふたりは互いの顔を見て、頷いていた。
部屋に入ってきたリュウヤらが正装しているのを見て、族長たちは驚く。
これまで、自分たちに正装を持って対応した者は皆無だったから。
そして同時に、リュウヤが獣人族たちをどう見ているのかを知り、自分たちがいかに卑屈になっているかを思い返す。
他種族にどう思われていようが、自分たちの国を持っているのだから、そのように振る舞っていかなくてはならなかったのだ。
それなのに自分たちは・・・。
「御招きいただき感謝する。」
「こちらこそ、招待に応じていただき、感謝する。」
リュウヤとグリフ、互いに挨拶を交わし、どちらともなく手を差し出して握手をする。
この時に、この会談の成功は決まり、獣人族との同盟は成立した。
会談は、文字通り和やかな雰囲気の中で進む。
特筆するのは、相互参戦義務だろうか。どちらかの国が攻撃を受けた場合、自動参戦するというものだ。
そして、獣人族の移住の受け入れ。
神聖帝国との長い戦いの結果、食料生産力が低下してしまっている。
食料を輸入しようにも神聖帝国の圧力もあり、必要量が確保できない。
言葉は悪いが、"口減らし"の意味合いもあるのだろう。
リュウヤ側からの条件は、龍王国の商隊への免税特権と、相互に奴隷売買の禁止。奴隷売買に関しては、獣人族たちも禁止しているため、大きな問題にはならなかった。
また、免税特権は相互のものとすることになる。
それらの条件を受け入れ、同盟が成立する。
成立するものが成立したら、あとは歓迎式典と言う名の宴会が始まることになる。