乙女心
会談が行われる部屋に向かうのは、リュウヤとサクヤ、秘書官ミーティアの三名。
リュウヤとミーティアは本来の正装をしているが、サクヤの正装はフェミリンスからの借り物である。
お忍びとして入り込んだため、正装を持ち込むことができなかったのだ。
そこで、フェミリンスが自分の正装をサクヤに貸したのである。
「盲目の私が行っては、周りに迷惑をかけてしまうでしょう。」
それ以外にも理由はふたつある。
リュウヤの婚約者であるサクヤを差し置いて出るわけにはいかないということ。
また、サクヤの代わりに出てしまうと、"側室"と周囲にとられかねないことがある。
サクヤはフェミリンスに感謝しつつも、その正装を着るにあたって複雑な気持ちになっている。
「胸のあたりに大きな隙間が・・・。」
着付けを手伝っているアルテアにそうこぼしている。
はっきりと言ってしまえば、フェミリンスの方が胸が大きいということだ。胸の大きさは、人によっては"女性らしさ"の象徴と見るむきもある。
「リュウヤ様から見て、私は魅力的に見えるのかなぁ。」
思わずボヤいてしまう。
「何を仰られますか。サクヤ様は十分に魅力的ですよ。」
アルテアが励ましている。
ちなみにリュウヤが女性の胸についてどう思っているかというと、
「大きい方が見映えはいいかもしれないが、あんなのはただの飾り。オマケだよ。」
とのこと。
そして、その発言をなぜか知っているアルテアが、サクヤにリュウヤの言葉を伝える。
「リュウヤ様は、そんなことを仰っていたのですか?」
いつだったか、リュウヤとミーティア、アルテアの3人でいるときに、なぜかそんな話になったときに言っていたのだ。
なんでそんな話になったのだろう?
サクヤの着付けを手伝いながら思い出す。
そうだ、侍女仲間の恋愛話の中で出た話題を、リュウヤ陛下に話したんだった。
「男は女のどこに魅力を感じるのか?」
そんな話題だった。
書類仕事がひと段落して、まったりとお茶を飲んでいたときに、
「みんなはどんな会話をしているんだ?」
と尋ねられて、話したのだ。
そんな補足説明をすると、
「リュウヤ様がそんなことを。」
「はい。胸の大小などよりも、内面の方がはるかに大事だと。」
「リュウヤ様らしいですね。」
そうは言っても、胸に当てられる詰め物の量を見ると、乙女心というものに傷がついてしまう。
「さあ、できました!リュウヤ陛下がお待ちですよ。」
その言葉に雑念を振り払い、リュウヤの待つ隣室に行くのだった。