国都ボース
獣人族の国の国都ボース。
その西側には幅10メートルほどの川が流れ、天然の水堀となっている。その川から水を引き、国都を守る水堀が形成されている。
城壁は高く、最も低いところでも10メートルはある。
ただ、その壁は石ではなく、煉瓦で積み上げられている。
これは、近くに石が採掘できる場所が無いため、その代用品として煉瓦を用いているのだ。
煉瓦造の城壁というと、その耐久性と防御力を不安視しそうだが、ボース近辺には森林が無く、攻城兵器が作れない。投石機をここで組み立てても、投石機に使用できるサイズの石が無い。
すると魔法攻撃しかないのだが、この見晴らしの良い平原では、すぐに察知され集中攻撃を浴びてしまう。
この地においては、煉瓦造でも十分な防御力を持つのだ。
城壁の厚みもかなりのもので、最も薄いところでも3メートル。最大で5メートルほどある。
その規模の城壁が、三重に市街地を取り囲み、さらに王宮を囲むように四番目の城壁がある。
「壮大なものだな。」
ボースの威容を見たリュウヤの感想。
別の見方をすれば、そこまでしなければ守れないということでもある。
城門をくぐり、ボースの中に入る。
市街は賑わっている。が、栄えているようには見えない。
それも当然かもしれない。
西方国境を接する神聖帝国とは戦争中であり、まともな交易はない。しかも、人間至上主義を標榜する国であるため、こちらからは行けず、向こうから細々とした個人商人しか来ない。
大規模商人では、神聖帝国政府に睨まれかねないため、個人商人しか交易ができない。
また、北方はトライア山脈が続いており、山脈越えでは物資はそんなに入って来ない。
東方の龍王国とは交流がなかったため、そちらからも物資は入って来ない。
残るは南方だが、こちらこちらで神聖帝国と国境を接しているため、大きな圧力を受け、大規模な交易はされていない。
馬車の車窓から見える範囲では、それぞれの店舗で売られている物は多いが、種類は少ない。
「ウチが売れる物は多そうだな。」
食料品から生活物資。武器も売れるだろうか。
「食料品や生活物資は、是非ともいただきたいですね。」
ファーブがリュウヤの言葉に乗る。
商談が始まりかねない流れに逆らうように、サリュラが
「そろそろ宮殿に着きます。」
そう声をかけてくる。
馬車の車窓から、巨大な門が見えてくる。
門の両脇にある番所から兵士が現れ、ファーブ、サリュラとなにやら話をしている。
話が終わると、リュウヤらを乗せた馬車は門を通過する。
馬車から降りると、案内役の者たちが待っていた。
「我々がご案内いたします。リュウヤ陛下。」
「よろしく頼む。」
そう答えながら、リュウヤは案内役を見て思う。
ケモ耳好きなら、嬉しい状況なのだろうなぁ、と。
リュウヤにその趣味がないため、理解はできないが。
控え室に案内されると、もう一室用意してもらい、旅装から正装へと着替える。
獣人族側が、正式に招待してくれたのだから、それに対しての礼儀でもある。
念のために持ってきたのだが、ここで役立つことになった。
こちらの準備が整うのを見計らっていたのだろう。
扉をノックする音がして、迎えの者が声をかけてくる。
「それでは、ご案内いたします。」
獣人族の国と、初めての正式会談が始まる。