表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍帝記  作者: 久万聖
145/463

兎人族

 翌日、旅の延長を伝えるための使いを出し、西方へと向かう。


 族長達の多くは早朝、先に出発している。


 残っているのは、兎人族族長ファーブと羊人族族長サリュラであり、彼らが同時に道案内役でもある。


 ラニャも当然のように、同行している。


 ここからは平原が続いているとのことで、用意された馬車に乗り込む。


 リュウヤは、ふと疑問に思ったことをサリュラに尋ねる。それは、羊人とは山羊(ヤギ)なのか(ひつじ)なのかということである。


 それに対するサリュラの答えは、


「両方ですよ。」


 羊人のなかには二種族あり、山羊種の方が戦闘に向いており、羊種は牧畜に向いているのだそうだ。


 そのため羊人のほとんどは定住をせず、国内を放牧して回っているという。放牧する羊種と、それを守る山羊種という間柄になる。


 それだけでなく、山羊種は指揮能力に優れており、戦闘力の低い羊種の集団でも、ある程度は戦える集団にできるのだとか。


 それを聞いたリュウヤは、"シートン動物記"を思い出す。"狼王ロボ"の話の中に、羊の群れの中に山羊を入れる、そんな話があったのだ。そうすると羊たちは、賢く勇敢な山羊を群れのリーダーとして纏まるのだとか。ただ狼王ロボのエピソードでは、山羊は真っ先にロボたちに狙われたそうだが。


 途中、放牧をしている羊人族に何度か出会ったが、その頭の角は、山羊のようであったり羊のようであったりと、バラエティに富んでいる。


長閑(のどか)ですね。」


 馬車の窓から見える風景の、サクヤの感想。


 同乗しているファーブとサリュラ以外は、皆頷いている。


「だからこそ、狙われやすくなっている側面もある。」


 放牧に適した土地ということは、広い平原があるということだ。そして、平原というのは攻めやすく、守り難い。

 地球上の国々でも、ポーランドやウクライナなどの、国土の大半を平原が占める国というのは、被侵略国になりやすい。そして、それは歴史が証明している。

 また、中国史を紐解いても、北方の平原地帯を奪われた後、南方で抵抗するのがパターン化している。


「残念なことに、陛下の仰る通りでございます。」


 サリュラは、リュウヤの言葉を肯定する。


 そして、だからこそ獣人族は結束したのだとも。


 結束して、役割をそれぞれが分担した。


 放牧にて、羊毛と羊肉をえる羊人族。


 農耕を行うだけでなく、国境付近での警戒にあたる兎人族。


 漁業と、夜間警備にあたる猫人族。


 狩りと領内巡回をしている狼人族。


 生産的なことは苦手だが、戦闘には無類の強さを発揮する獅人族と虎人族。


 力仕事に長け、闘いにも頼れる熊人族。


 力を合わせてきたからこそ、この地で生きてこられたのだろう。


「人間たちの方が、よっぽどまとまりがないわ。」


 リュウヤはそう言って笑う。その笑いに、同乗しているコジモとベニードが苦笑する。


「それに、兎人族は戦闘力が無いと思っているようだが、人間よりも遥かに戦闘力はあるぞ。」


 その言葉に、ファーブとコジモは驚く。


「まさか。」


 異口同音に出る言葉。


「気性としては、戦いに向いていないかもしれないが、身体能力はお前たちが想像している以上にあるぞ。」


 その言葉を信じないふたりに、


「では、少し試してみるか?」


 馬車を止めるとラニャを呼び、コジモには兵士をひとり連れてくるように命じる。


 呼ばれてやってきたラニャに、リュウヤがなにやら耳打ちすると、驚いたように


「無理無理無理無理無理無理〜〜〜〜!!!」


 と絶叫する。

 だが、リュウヤはそれを無視して、動作を交えた指導をしている。


 そこへコジモが兵士を連れて戻って来る。


 その兵士に盾を構えさせると、


「ラニャ、俺が教えたように盾を蹴ってみろ。」


 ラニャは渋々といった様子で、盾をめがけて蹴りを繰り出す。空手でいう回し蹴りだ。


 盾に当たると凄まじい音が響き、屈強に見えた兵士は後ろに飛ばされ、盾は破壊されていた。


 その様子に皆が驚く中、蹴ったラニャはというと、


「痛い痛い痛い!足が痛い!!」


 リュウヤはここで重要なことを忘れていたことに気づく。


「脚甲させるのを忘れてた。」


 "テヘペロッ"としたいところだが、自分にはとても似合わないことを理解している。そこで、


「サクヤ、手当をしてやってくれ。」


 サクヤは苦笑しながらそれに応じて、ラニャに治癒魔法をかける。


 治癒魔法といっても瞬間的に治るわけではなく、本来の治癒能力を引き出して、治癒にかかる時間を短縮させるのだ。


「痛かったぁ。」


 まだ涙目になっているラニャに、彼女の蹴りで破壊された盾を見せ、


「盾を破壊した感想はどうだ?」


「へ?」


 リュウヤが持っている壊れた盾を見るラニャ。


 自分がしたことが信じられない、そんな表情をしている。


「なぜ、その身体能力に気づいたのですか?」


 コジモの疑問。


「足だよ。特に太腿(ふともも)を見てみろ。太いだろ?」


 "太いだろ"の言葉に、


「気にしてるのにぃ。」


 ラニャの乙女心が傷つく。


 コジモはリュウヤに言われて、初めてそのことに気づいた。


 たしかにその太腿は太い。しかも尋常じゃないほどに。


 コジモには比較する対象がないが、リュウヤは"男性競輪選手"か"男性サッカー選手"に匹敵するとみている。


「その太腿の脚力があるからこそ、あの蹴りができる。」


 さらにリュウヤは言う。あの脚力が生み出す瞬発力なら、多少の間合いは無にできる。


「意外と、近接戦闘に向いているってことだ。」


 身体能力を活かす格闘術か、または戦術を編み出せれば、相当な戦力になる。それが、リュウヤの見立てである。

 無論、兎人族の気質もあるだろうから、無理強いはできないが。



 説明を終え、再び馬車を走らせると、ファーブは考え込んでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ