獣人族
随行員を大幅に減らし、獣人族の国へと進む。
随行するのは、サクヤとフェミリンス、タカオとヒサメ。スティールを中心に護衛は半数に。
ヴィティージェは蟲使いの集落に残り、下交渉を行い、後日派遣される交渉役のための地ならしを行う。オボロはその補佐兼護衛。
エルフたちも大半は残り、この地の農業指導やドワーフと協力しての地図作成の準備を行う。
さらに、ナスチャが同行することになった。
これは、獣人族と友好関係にある蟲使いが同行することで、無用なトラブルを防ぐためである。
それらの手配を行ない、昼前に出発。夕方には到着する予定だ。
獣人族の国への道すがら、リュウヤはラニャから獣人族とその国のことを聞き出している。
ラニャによると獣人族もまた、蟲使い一族と同様に迫害を受けてきたのだという。
似た境遇だったこともあり、獣人族と蟲使い一族は意気投合したのだとか。
「迫害の理由はなんなのだ?」
例えばだが、蟲使いならば嫌悪種と呼ばれる蟲の使役があるかもしれない。また、蝗等による虫害を、その無知から蟲使いの所為にするということもあるだろう。
だが、獣人族は?
「迫害する人間たちに言わせると、半端者なんだってさ。獣人族は。」
この大陸の西方で有力な宗教の教義では、獣人族は"人間になろうとしてなりきれなかった"半端な種族と定義されているらしい。
コジモとベニードに確認すると、
「そんな教義は聞いたことがありません。」
とコジモ。
ベニードは、
「このあたりの地域から、宗教観が大きく違っていると、ヴィティージェ師よりうかがったことがあります。」
とのこと。
「西方の者たちが特に信仰する"至高神ヴィレ"の神殿の教義は、人間こそが神の直系であるとしているとか。」
なるほど。だから、他種族は見下し、迫害してもいいということか。
「どこの世界でも、いらん宗教は存在するのだな。」
地球の歴史を振り返る。
宗教によって差別、迫害される事例のなんと多いことか。
キリスト教の他宗教への迫害は有名だが、同じキリスト教内でも幾度となく迫害を繰り返している。
なかでも、カトリックとプロテスタントの争いの酷さは、現代でも根強く残っていると言われる。
「王様は私たちを見ても、何も思わないのかな?」
ラニャが問いかける。
「俺たちとたいして変わらない存在だとしか思わんな。」
その返答に、不思議そうに首をかしげる。
「こうやって、互いが理解できる言葉を話せ、意思疎通ができる。」
恋愛もするだろうし、喧嘩もする。嬉しいことがあれば悲しいこともある。殴られれば痛いし、理不尽なことには怒りを覚えることもあるだろう。
「それで、どこが俺たちと違うんだ?違うのは見た目だけだろう?」
「へえ。そんな風に考えるんだ、王様は。」
耳がぴょこぴょこと動いている。
「その見た目が重要だと思うけど?」
水を差すようにナスチャが言葉をはさむ。
「そうか?見た目よりも、頭や肚の中の違いの方が、よっぽど重要だぞ?」
見た目は、生まれついてのものだし、種族が違えばなおさらのこと。
それよりも差別意識や固定観念にとらわれた相手の方が、よっぽど苛だたしい。
「それよりも、獣人族の国とはどんな国なんだ?」
ラニャはそれに答える。
「王様はいないけど、種族長の合議で運営されているんだよ。」
獅人族、虎人族、熊人族、狼人族、猫人族、兎人族、羊人族の7種族あり、それぞれの長による合議制なのだという。
人口比率としては羊人族が最も多く、次いで兎人族、狼人族と続き、最も少ないのが熊人族なのだそうだ。
だが、合議では各種族一票となり、最終的には多数決で決める。一種の間接民主制と言えるのかもしれない。
面白そうな国だと、リュウヤは思う。
いずれは民主制を採用したいとは思うが、それは遥か遠い未来のこと。
それを、種族によってのものとはいえ、一部実現していることは羨望に値する。
「さあ、着いたよ!」
ラニャの元気な声が響く。
ラニャとナスチャが先に行き、リュウヤらの訪問を伝える。
どのような対応をされるのか、楽しみでもある。
リュウヤたちはその場に留まり、ラニャとナスチャが戻るのを待つことにした。