兎人ラニャ
宴も終わりに近づくなか、小さな騒動が起きる。
「侵入者がいるぞ!」
蟲使い一族が騒然となる。
そして連れられてきたのは兎の耳を持った人型生物。獣人と呼ばれる存在だ。
「ラニャ!」
連れられてきた兎の耳を持った獣人を見たナスチャが、その獣人の名を呼ぶ。
リュウヤは族長を見る。
「兎人族の娘です。」
この地に来る前に、獣人族の世話になったのだという。
そしてあの娘は、ナスチャと仲が良かったのだとか。
そして問題は、その兎人がなぜここに、この時間にいるのか?
同じ疑問を抱いたのだろう。アーグがラニャと呼ばれた娘に問いかける。
「なぜ、お前がここにいるのだ?」
「そ、それは・・・。」
「それは?」
言い澱むラニャに続きを促す。
「昼間に森に入ったら、戦ってるみたいな音が聞こえて・・・」
「それから?」
「もしかしたらナスチャが、龍人族と戦ってたりしてるんじゃないかって・・・」
そこで一旦口を閉ざすが、堰を切ったように話しだす。
「あれだけ忠告したんだから、そんなことはないと思ったけど、でも、もしかしたらと思って、様子を見に来たんだ。」
なるほど、忠告を受けた上でもあの行動か。よっぽどサスケを取られたのが頭にきたのか、それとも別の理由があるのか。
「ラニャから忠告されていて、それでいて戦ったのか。」
アーグの呆れたような声。そしてナスチャを見る。
「だって、弱い奴の下になんてつきたくないから・・・」
ああ、そういう理由ね。確かに、弱い奴の下について、すぐに滅ぼされちゃかなわんからなぁ。
それで、突っ張ったわけね。
だけど、あのラニャという娘の言葉が引っかかる。
龍人族と戦うなと、そう忠告したらしいが誰か接触したのか?
いや、巡視はしていたのだから接触した者がいるとは思うが・・・。
そこで、ヒサメとオボロを呼んで確認する。
「はい。害意が無ければ無視してよい、そう陛下が仰られていたので、そうしていました。」
だが、"戦うな"と忠告していたということは、誰かが戦ったということではないだろうか?
「ああ、そういえばアカギ班が獣人族と戦ったとか言っていましたっけ。」
なにそれ?報告を受けてないんだけど?
「100人くらいと戦ったとか言ってました。」
なるほど。聞くまでもないとは思うが、
「結果は?」
「圧勝したと。」
「全員、気絶させてしまったので、後が大変だったと言っておりました。」
一班5人だったから、それは相当なインパクトを与えただろうな、獣人族には。
「で、それはいつ頃のことだ?」
「ドワーフの王国への遠征後です。」
冬の到達前か。すると、獣人族は食料調達のために森に入り、そこでアカギたちと遭遇、戦闘になった。
そこでひとつの疑問が浮かぶ。
「族長。貴方達がここに来たのはいつ頃だ?」
「雪解けの後になります。」
納得。それで今まで蟲使い一族との接触がなかったと。
「ラニャだったな?」
「は、はい!」
突然リュウヤに名前を呼ばれて、兎人ラニャはビクッとする。
「お前たちの国は近いのか?」
「は、はい。このまま西に半日くらい。森を抜けるとすぐです。」
予想よりも近い。
「足を伸ばしてみますか?」
リュウヤが言おうとしたことを、サクヤが言う。
「ラニャ、道案内を頼めるか?」
「わ、わかりました。道案内を務めさせていただきます。」
翌朝、獣人族の国に向けて出発することになった。