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龍帝記  作者: 久万聖
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蟲使いたちとの宴

 会談後、ささやかな宴が催されるはず、だったのだが、リュウヤが食料を開放させたため、盛大な宴となった。


「我が国の庇護下に入った以上、飢えさせてはならん。」


 とのことで、開放を命じたのだ。


 リュウヤの統治に関する基本理念、それは「管子(注」が一番近いかもしれない。


「倉廩満ちて礼節を知り、衣食足りて栄辱を知る。」とは管子の言葉だが、それは真理だと考えている。


 その日暮らしの者に礼節を説いたところで、パン一切れを得るためには礼節に(もと)る行為を(いと)わずに行うだろう。


 同様に、衣服や食に余裕のない者に栄誉だの屈辱だのと説いても、理解はされない。


 礼節だの栄辱だのを教育したいなら、民を富ませなければならないし、衣や食に事欠くような状況にしてはならないのだ。


 リュウヤとアーグは、同じ席で酒を飲んでいる。


「今回は、色々とありがとうございます。」


 アーグとしては、孫娘ナスチャが敵対行動をとった時点で、一族の滅亡すら覚悟していた。


「礼を言われることはしていないよ。」


 リュウヤにしてみれば大したことはしていない。


「こちらこそ、色々と利益になることがあった。今後も、利益になることがあるだろう。」


 野菜や果樹の受粉は農家にとって重労働であり、それはひとつの職業となり得るだろう。害虫駆除だってそうだ。


 それらが仕事として成り立っていけば、蟲使い一族も定住できるようになるだろう。


 ただ、蟲使い一族への偏見を覆すのは、これからの蟲使いの行動次第だ。いくらリュウヤに偏見がなく、龍王国(シヴァ)の国民に偏見が少なくとも、どちらに転ぶかはわからないのだ。


「陛下〜〜。」


 涙目になっているアルテアの頭には、サスケが乗っている。

 よっぽどそこが気に入ったようだ。


「お前を守っているんだろう。」


 無責任に、思いつきで言っただけなのだが、サスケは"その通り!"と言わんばかりに胸をはっている(ように見える)。


「本当、ですかあ?」


「よかったな、アルテア。」


「うううぅ・・・。」





「本当によく懐いておりますな。」


 サスケの様子を見て、アーグは感心したように言う。


「あいつは、相当に知能が高いみたいだからな。」


 あちらの世界のカラス並みか、それ以上の知能がありそうだ。


 最初に出会ったのは池に落ちていたのを助けたことだが、それを考えると結構ドジなのかもしれない。


「ナスチャが嫉妬するのもわかります。」


「嫉妬?」


「はい。あの蜘蛛は気紛れでしてな。懐かないことで知られているのですよ。それが・・・」


 リュウヤにとてもよく懐いている。しかも、その意に沿うように侍女の警護を買ってでている。俄かには信じられないし、特に蜘蛛使いであるナスチャには面白くないことこの上ないだろう。


「リュウヤ陛下、ナスチャを側に仕えさせていただけませんかな?」


「?」


 唐突な申し出に、リュウヤはその先を促す。


 側に仕えさせると言っても、"愛妾のひとり"にということではないだろう。


「見聞を広めてやって欲しいのですよ。あの子の世界はあまりにも狭いのです。」


 たしかにそれは感じる。他人、いや一族外に向ける不信と強烈な敵愾心。それが生まれた要因はなんなのだろう?


「わかった。受け入れよう。」


 たとえ要因を聞いたところで答えはしないだろう。


 本人から聞き出すしかない。話してくれるまでに心を開かせるのも、こちらの仕事ということだ。


 ただ、サスケ絡みで自分に嫉妬しているとなると、自分の側に置くわけにはいかないだろう。人間に迫害されていたとなれば、人間以外。


 すると、誰のところに置くか?


 サクヤかエストレイシアしかいない。


 エストレイシアは軍しか頭にないという、ナスチャとは別の意味で世界が狭い。


 するとサクヤしかいない、か。


 あとでサクヤに話しておこう。




 宴もたけなわに、夜も更けていく。

管子・・・春秋五覇のひとり、斉の桓公に仕えた管仲に仮託した思想書。

「倉廩満ちて礼節を知り、衣食足りて栄辱を知る。」の言葉が特に有名。

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