蟲使いとの会談
会談場所もまた、天幕だった。
龍王国からはリュウヤとサクヤ、秘書官のミーティアと探索隊指揮官であるスティールの4人。
蟲使い一族から族長アーグとその孫娘ナスチャ。そして使いとしてリュウヤたちを呼びに来た者、カロ。
4対3の会談である。
会談といっても、結末は決まっている。
蟲使い一族が龍王国の庇護下に入る。
大まかに言えばそれだけ。
あとは、条件があるかどうか。
「こちらとしては、この辺りの管理を任せるつもりでいる。」
「は?」
リュウヤの言葉に唖然としているのは、蟲使いの代表たち。
「少なくともここの方が、別の場所に移されるよりマシだと思うが?」
たしかに、ある一定の集落を形成したのだから、他の地域に移されるよりマシだ。
「本当に良いのですか?」
「かまわない。」
うまい話には裏がある。迫害を受け続けてきた蟲使い一族は、そう簡単には信用しない。
「うまい話には裏がある、そう思ってるだろう?」
リュウヤの言葉が図星でも、"はい、その通りです"とは言えない。絶対的強者の機嫌を損ねてはならないのだ。
「もちろん、こちらからの条件がある。いわば取引だな。」
「内容を伺っても?」
「当然だ。」
まず、リュウヤはカラザに話した内容を伝える。その内容を理解していくほどに、アーグの目が見開かれていく。
「その技術は、当然のことだが蟲使い一族にも開示する。」
この言葉に衝撃を受ける。
「本気で仰られているのですか?」
アーグの問いは、当然すぎることだ。
もし、その技術を持ったまま蟲使い一族が逃げたらどうするのか?
せっかく開発した技術を持ち逃げされるだけでなく、競合相手となり、場合によっては自分たちの商品価格を下げることになりかねない。
「本気だよ。開発した技術を持ち逃げするならすればいい。それによって一番の利益を得るのは、買う市民だからな。」
価格が安くなれば、一部の人だけが購入する市場などよりも巨大な市場になり得る。当然ながら、そこで勝つにはいっそうの技術開発も必要になるだろうが。
「馬鹿じゃないの?」
素直すぎる反応はナスチャだ。ナスチャの素直すぎる言葉に、スティールが激高しかけるが、リュウヤの言葉がそれを抑える。
「そうかもしれないな。」
そう言って笑う。
アーグはそんなリュウヤを見つめる。そして、
「わかりました。カラザをそちらに派遣いたしましょう。それで、他にはなにかありますかな?」
「そうだな。今は蜂と蜘蛛を使う者を借りたい。」
先程戦ったような大型の蜂を使うものではなく、小型の蜂を使う者を。
「それは、どのような理由ですかな?」
「どちらもだが・・・」
リュウヤは説明を始める。
蜂は、野菜や果樹等の受粉に使いたい。エルフたちに養蜂をしているものがおり、受粉にも使用してはいるが、効率がとても悪いため、技術指導を頼みたい。蜘蛛は、それらにつく害虫駆除のため。
「むろん、対価は支払う。」
「わかりました。それでは、幾人か派遣いたしましょう。ですが、対価は・・・。」
いらない、そう続けようとしてリュウヤにピシャリと言われる。
「対価は受け取ってもらう。お前たちは庇護下に入りに来ても、奴隷になりに来たわけではあるまい。」
一方的に労働を受けておいて、対価を払わないのでは奴隷としているのも同様であり、それはリュウヤの価値観が許さない。
アーグも、その言葉に反省する。
「今まで迫害を受け続け、どうやら卑屈になってしまったようです。わかりました、適正な対価を受け取らせていただきます。」
また、森の西部探索拠点をここに置くことと、それに参加する者には対価を払うこと。物資の集積基地の管理と防衛を任せることも決定される。
細かい条件は、担当者を派遣して詰めることになるが、今回の目的のひとつである、蟲使い一族との接触は達せられた。
蜂の受粉能力はとても高く、特にミツバチが絶滅すると作物は3割くらいしか取れなくなるという研究報告もあるそうです。




